GINGERサポーター

GINGERの世界観に共感し、誌面やWEBの企画に積極的に参加、協力してくださるGINGERサポーターを募集します。 サポーターに登録することで、取材や撮影、レポーターなどを体験していただいたり、イベント・セミナーへの参加、 サポーター限定プレゼントへの応募など、数々の特典をお楽しみいただけます。

GINGERサポーターとは

GINGERサポーターに登録する

MAGAZINE

2•3月合併号 Now on sale
This is LOVE

最新号を見る

定期購読はこちら

  • LINE
  • Instagram
  • YouTube
  • TikTok

LIVING趣味

2026.08.16

卵子凍結は独身女性が将来に備える重要事項。30代文筆家が綴るリアル事情

鈴木彩とひらりさ。30代後半、独身、会社員兼文筆家…そんな共通項をもつ二人の女性が〈恋愛〉について考えるために始めた往復書簡が一冊の書籍に。共感と気付き、刺激に満ちた新刊『いつか終わる恋愛の、人生への影響について』から、GINGER世代の生き方、考え方のヒントになるパートをピックアップしてご紹介!

働く女性たちに、間近に迫る出産問題

20代の前半のまだ学生だった頃には、将来は結婚して子どもがいる家庭をつくるだろうと、今後の人生を漠然と描いていた人が多かったかもしれない。20代後半になり、仕事を覚えて大変さと楽しさを知り、気が付けば30代。結婚する予定もなく、シングルライフを謳歌しているとふいに耳元でささやかれる。「子どもを産む気はあるの?」——結婚にタイムリミットはないけれど、出産にはそれがあるのだというリアルな現実が突きつけられる瞬間。

今はそんな状況ではないけれど、将来のどこかのタイミングで子どもが欲しいと思うようになるかもしれない。「卵子凍結」はそんな女性たちの焦りや不安を解消する頼み綱と成り得る。

鈴木綾さんがこのパートに綴った、海外(イキリス)の同様の立場にいる女性たちの卵子凍結をめぐるエピソードがとてもリアル。こういう世情を知っておくことがも事。

鈴木綾 2025年10月 卵子凍結をめぐる3人の友人たちの話

Chère Hirarisa

 パリのメトロには今日、色々な匂いが入り混じっていた。ある瞬間、座席の下で生ゴミが腐敗しているのではないかと疑うほどの臭いがしたかと思えば、次の瞬間、シャネルのココ・マドモアゼルという香水の香りに包まれていた。またある駅で車両のドアが開いたとき、嘔吐の酸っぱい臭いが顔を襲った。中年の男性がベビーカーを押し込み、疲れきったように座った。子供の上着と足は生々しい嘔吐物で覆われていた。父親は小さなティッシュを持っているものの、すでに拭く意欲を失い、敗北したような表情で子供を見つめていた。今日は、嘔吐が完全な勝利を収めた。

 子供を持つということは、こういうことでもあるね。ひらりさの卵子凍結についての質問、こういった処置を受けた女性を3人知っている。

 イギリスでは、国民保険は限られたケースでのみ卵子凍結をカバーしている。補助金と治療を受けるための有休制度を提供する会社もあるが、これは大体、福利厚生が手厚い大企業に限られる。それ以外は自費負担だ。自分で払う場合、最高で1万ポンド(約200万円)ほどかかる。私が知る3人のうち、二人は大きな覚悟をして自費で治療を受けることにした。子育ての大変さ──突然の嘔吐の片付けも含めて──、そうした将来に備えるための投資として、この金額は意外と妥当だと考えているのかもしれない。

 そうはいっても、3人とも子供を産むはるか前に、将来の子供のために並々ならぬ経験をしている。採卵日に病院のガウンを着て、Vサインのポーズをとった友人の自撮り写真はいまでも忘れられない。彼女はその後、まるで何事もなかったかのように会社に戻った。また、新聞記者の友人は、大きな取材の合間を縫って、密かに会社のトイレで排卵誘発剤の注射を打っていた。みんな本当にタフだな、と思う。ゲロぐらいには負けないだろう。

 私自身は卵子凍結を考えたことはないが、より多くの女性がこの治療について語り、企業がスタッフの福利厚生として補助するようになってきたのはとてもいいことだと思う。なぜなら、女性は健康において、常に後手に回り、準備不足なままだからだ。

 子供を持ちたいと決意する瞬間まで、多くの女性は自分の妊孕性(にんようせい)、つまり妊娠する力について深く考えない。閉経についても同じことが言える。48歳のいとこの話を思い出す。彼女は謎の足の痛みに悩まされ、3人の医師と話した末にようやく、それが更年期によるものだと知った。彼女の年齢にもかかわらず、どの医師もその可能性に触れず、彼女自身も聞く必要があると知らなかった。彼女はもっと準備できたはずだった。

 だから卵子凍結は、女性が将来に備える重要な機会なのだ。準備することで、より多くの選択肢を持つことができるから。極端な比較になってしまうかもしれないが、大学進学の準備で、学生が一生懸命勉強して、試験を受けて将来の選択肢を増やす一方で、私たちが家族を作るための準備を進められないのは不思議だと思う。

 私が知っている卵子凍結した女性のうち、一人は婚約者がいて、二人は独身だった。これは私がメディアで読んだ記事を裏付けている。多くの女性は将来パートナーを見つけた際により高い確率で子供を持つことを望んで、事前に卵子を凍結している。つまり、卵子凍結をする女性の大半は独身なのだ。

 しかし、イギリスの医学雑誌に掲載された論文によると、凍結卵子を実際に使用する女性はわずか12%。悲しいことに、研究者たちはこの結果を最終的にパートナーを見つけられないためだと分析している。では、残りの88%はなぜ凍結した卵子を使わなかったのか。彼女たちのほとんどは、望むなら自分一人で子供を育てる経済的な余力を持っていたはずだ。

 しかし、実際に選択的シングルマザーになる道のりで問題になるのは、お金のことだけではない。精子バンクを利用する場合、まず病歴の審査や血液検査が必須で、生殖医療カウンセラーによるカウンセリングを受けなければならない。その後、体外受精あるいは人工授精が必要になるが、国民保険の対象にならない限り、費用は全額自己負担となる。一人でこの道を選ぶには、相当な覚悟が必要だ。

 だから選択的シングルマザーになるぐらいの経済的豊かさを持っている女性でさえ、子供を持つためにはパートナーの存在が不可欠な条件と見なしている。

 メディアでは「選択的シングルマザーになった理由」といった記事が増えてきた気がするし、イギリスの受精・胚研究認可庁(HFEA)によると、体外受精(IVF)によって選択的シングルマザーになる人の数が、2019年から2020年にかけてなんと82%も増加した。だからイギリスではタブー視されなくなってきている。それでも現実的には、ごく一部の人しか選ばない道にとどまっている。

 というのも、82%の増加といっても、2022年の実数はわずか3500人にすぎないからだ。友人に選択的シングルマザーを知っているか聞いたところ、二人しか名前が出てこなかった。どちらもイギリス出身で、家族が近くに住んでいたため、育児サポートに頼ることができた。

 パートナーが見つからなかった場合、選択的シングルマザーになることを真剣に考えている友人は数人いるが、私はいまの人生のままだったらその選択肢は絶対に避けたい。両親はイギリスに住んでいないので、子供の世話を手伝ってくれる家族が近くにいない。独身だったら、育児費用を全て自分で背負わなければいけない。ロンドンの場合、その金額は目も当てられないほど高い。保育料だけで家賃と同じくらいかかる。破産してしまいそう……。

 しかし、考えれば考えるほど、子供を持つことについての私の見方は、長い間一人でサバイブしてきた経験に形作られてきたのだと思う。大学を卒業してすぐ母国を離れ、知り合いが一人もいない東京に引っ越した。その後、遠い親戚しかいなかったロンドンに移り住み、またゼロから人生を築き直した。常に仕事を優先し、住む場所を探したり、新しい国に適応したりと、サバイバルモードで生きることが多かった。だから誰かに「子供が欲しい?」と聞かれると、「私は全てを一人でこなしている。そのうえに子供? どうやって費用を払うの? 誰が手伝うの?」と反射的に返してしまう。子供の問題に限らない。私は人生のあらゆるプランを「一人でやらなければならない」という前提で考えてしまっている。パートナーがいるにもかかわらずだ。

 この根深い「独身マインド」を最も実感するのは、空港の出迎えに対する私の感覚だ。私は月に少なくとも一回は海外に行く生活をしている。帰りに荷物をピックアップして出口に向かう長い廊下を歩いていると、なぜかわずかな期待がいつも胸に湧く。もしかしたら、「あや」というボードを持っている人が待っているかもしれない。花束を持っている人が待っているかもしれない。でも、毎回、誰もいない。いままで100万回、誰もいなかったのになぜか期待してしまう。がっかりの気持ちは一瞬で消える。足早に家に向かう。

 子供の頃、空港は家族が迎えに来てくれる感動の再会の場所だった。でも大人になって、空港は、感情を感じるためにどこかへ向かう途中の通過点でしかない。

 年に一回会いに行く、ヘルシンキに住む友人がいる。ある夏に訪れたとき、彼女がなんと「空港まで迎えに行こうか」と言ってくれた。ヘルシンキの街はロンドンほど広くなくて彼女の家から空港まで電車で30分だし、彼女はちょうど有給休暇を取っていた。それでも、本当にいいのか、甘えすぎじゃないか、と躊躇しながら、お願いした。無理を言ってよかったといま思う。おなじみの笑顔が出口で待っていたのがどれほど嬉しかったか。

 ヘルシンキでの経験は、人に頼ることの温かさを教えてくれた。でも日常ではまだその壁を越えられない。家を引っ越すとき、重い荷物を運ばなければいけないとき、インフルエンザでベッドから出られなくて薬が買えないとき、友達に手伝ってもらえばいいのに電話しようと思わないことは数えきれないほど多い。じゃあ、友達に頼めなくても彼氏ができたのだから彼氏に頼めばいい、と言われても、それでもためらってしまう。独身マインドからはまだ脱出できていないね。

 それはなぜだろうね。私が多くの同世代の独立心の強い女性と同様、異性愛関係がいかに不平等になりがちかに敏感で、男性パートナーに依存することに不安を感じているからではないか。育児を一手に引き受けて、キャリアを犠牲にしたらどうなる? 家事を彼氏がしなかったらどうなる? 前の世代の「誤り」を繰り返さないために、私は過度に独立心を手放したくないのかもしれない。

 しかし、最近は彼氏と多くの時間を過ごし、信頼関係を深めていることで、誰かに依存することの素晴らしさを理解し始めている。どちらも自由を失うことなく、互いをサポートする関係を築くことは可能だと思い始めている。二人でしかできないことがきっとある。ただし、そのためには、私は考えすぎるのをやめなければいけない、もっとリラックスしなければいけない(笑)。

 そして、独立と依存のバランスを試す新しい機会が訪れた。報告がある──来週から、アメリカのスタートアップでフルタイムの仕事に就く。チームのほとんどはアメリカにいるが、私はロンドンでリモートで働く。

 一つの会社のフルタイム勤務に戻るというのは、ほぼ2年ぶりのこと。大きな転換点だ。2024年の初めから、小説を書く時間を確保するためにフリーランスでコンサルティングをしてきた。イギリスではこれを「ポートフォリオキャリア」と呼ぶ──つまり、同時に複数の会社や異なるチームと仕事をすること。

 一般的に、ポートフォリオキャリアはキャリアの後半に選ぶライフスタイルだ。両親の介護をしているときや、子育てとキャリアのバランスをより柔軟にとりたいとき。こんなに早い時期にこの働き方に入るとは、正直、想像もしていなかった。でも、楽しかったし、クリエイティブなプロジェクトに挑戦する時間と余裕を与えてくれたし、交渉する力も身につけた。こんなに稼げるんだ! と自分の価値に目覚めたことで、自信もついた。

 それでもいまは、再び一つのチームに所属できることを楽しみにしている。多くのポートフォリオキャリアの人々と関わっているキャリアコーチも、鋭い指摘をくれた。ポートフォリオキャリアが長くなればなるほど、正社員に戻るのは難しくなる。企業は「つぎはぎ」の仕事経験を厳しく見る傾向にあり、働く側が再び明確な枠組みに戻るのは容易ではない。今回はチャンスだ、と彼女はアドバイスしてくれた。

 20代の頃と比べて、私のキャリアに対する目標は変わったのだろうか? 野心は相変わらず健在だ。ただ、いまはより柔軟性を優先している。特定の時間に机に縛り付けられることなく、労働時間ではなく成果で評価されたい。柔軟に働けることで、旅行もでき、原稿を書く時間も確保できる。今度入るスタートアップは完全にリモートだから、私たちが一緒に本を出版するときには日本に会いに行けるし、今週のように水曜日にパリのコンサートに行くこともできる。

 仕事か、恋愛関係か、卵子凍結か──何を優先するかを決めるには、自分自身を知ることが必要だ。だって、自分の人生なのだから。自分のことをよく知っていると思っても、好奇心を持って自分の心を探れば、常に新しい発見がある。

 自分自身を知ることは、先ほど話した「準備」に似ているかもしれない。自分をより深く理解すればするほど、特定の状況でどう反応するか、大きな決断をするときにどんなバイアスと悪い癖を持っているかが見えてくる。

 私の悪い癖は、自分一人で自分のことを全て理解できると思ってしまうことだ。まるで自分が人生という電車に一人で乗っているように思ってしまう。でも、客観的に自分を見る能力を育てるには、他の人と関わり、ぶつかり、失敗を重ねなければならない。この往復書簡を通じてまさにそうしているような気がする。ひらりさがボクシングのスパーリングパートナーのような存在になってくれて、私に書くことを強いて、そうでなければ考えもしなかった問いについて考えさせてくれる。感謝しています。

 私たちが手紙を書き始めて10ヶ月。最初に書き始めたとき、ひらりさはちょうど失恋をしたところだった。感情の調子はどう? 独立と依存についての私の話をしたけど、ひらりさは誰かに頼っているの?

覚えておきたい、鈴木綾さんの言葉

〈子供を持ちたいと決意する瞬間まで、多くの女性は自分の妊孕性(にんようせい)、つまり妊娠する力について深く考えない〉という一文に気付かされるのは、あらためて妊娠することがそんなに容易ではないということ。そして加齢とともに、その難しさは上昇する。〈卵子凍結は、女性が将来に備える重要な機会なのだ。準備することで、より多くの選択肢を持つことができるから〉という言葉を、自身のこれからを考える際に思い出したい。

卵子凍結をする女性の大半が独身であるということ、そして将来パートナーが見つかったら凍結した卵子を使って妊娠したいと考えているであろうことも、興味深い。

産む/産まないという結論を今すぐ出すのは現実的でない。ただ、歳を重ねていくことで即答を迫られてしまうのならば、卵子凍結でその選択肢を広げておきたい。いずれにしろ〈何を優先するかを決めるには、自分自身を知ることが必要〉なのだ。

このパートには〈選択的シングルマザー〉や〈独身マインド〉など、他人ごととは思えないテーマが連なっている。目の前の日々の出来事に立ち向かうことで精一杯でも、近い将来のことを考える視野をもって。自分が選択したのなら後悔は少ない。くれぐれも、気が付いたら選択肢を失っていた、ということにならないように。

幻冬舎刊

『いつか終わる恋愛の、人生への影響について」
 鈴木綾×ひらりさ

日本名・日本語で執筆しているものの、日本人ではない鈴木綾(1988年生まれ)と、劇団雌猫のメンバーにして文筆家のひらりさ(1989年生まれ)の一年にわたる往復書簡。GINGER世代に刺さるテーマが並ぶ。30代後半、独身女性のリアルが詰まった、深い示唆に富む言葉の宝庫。

TEXT=GINGER編集部

PICK UP

MEMBER

GINGERの世界観に共感し、誌面やWEBの企画に積極的に参加、協力してくださるGINGERサポーターを募集します。 サポーターに登録することで、取材や撮影、レポーターなどを体験していただいたり、イベント・セミナーへの参加、 サポーター限定プレゼントへの応募など、数々の特典をお楽しみいただけます。

GINGERサポーターとは

GINGERサポーターに登録する

GINGERの世界観に共感し、誌面やWEBの企画に積極的に参加、協力してくださるGINGERサポーターを募集します。 サポーターに登録することで、取材や撮影、レポーターなどを体験していただいたり、イベント・セミナーへの参加、 サポーター限定プレゼントへの応募など、数々の特典をお楽しみいただけます。

GINGERサポーターとは

GINGERサポーターに登録する