アスファルトの照り返しに、室内の冷房の寒さに、行く手を阻む人の波に、心身ともに疲れが溜まってしまう都会の夏。眉間に寄ったシワを緩めに、旅に出ませんか。おすすめは、潤沢な水と澄みきった空気、そして眩い緑の草原が、疲れを洗い流し心を浄化してくれる阿蘇の旅。GINGER取材班が「界 阿蘇」で過ごす夏旅をレポート!
阿蘇に近づくと、呼吸が深く心地よくなる
熊本空港に到着し、レンタカーでくじゅう国立公園内にある温泉旅館「界 阿蘇」を目指す。車でおよそ1時間10分のドライブ。走り出して間もなく窓の外に広がる景色は、大きな空と見渡す限り広がる緑の大地に変わる。
元気に生えそろった草が風にたなびくさまは、まるでふかふかの絨毯のよう。こんなに美しい草原、初めて目にしたように思う。いったん車を停めて降り立ち、外の空気を吸ってみる。青々とした草から立ち上る、何だか懐かしい匂いに思わず深呼吸。体中にいい氣が満ちていく感覚に浸る。
この“緑の絨毯”は自然が生み出すものではあるけれど、その背景に阿蘇で千年以上続いているといわれる“野焼き”があってこそ。春先に阿蘇山の一帯で行われている野焼きは、草原が荒れるのを防ぎ、新しい草の生長を促したり、放牧される牛や馬に付く害虫を駆除する目的があるそう。いったん黒焦げになった大地から一斉に芽吹く緑草がつくり出す幻想的な光景は、阿蘇の人々の手で大切に守られてきた自然なのだ。滞在中に幾度か目にするこの緑の景色に、とてつもなく癒やされる。
阿蘇の恵みを存分に味わえる温泉旅館へ
大分県と熊本県にまたがる阿蘇くじゅう国立公園は、九州中央部に位置する国立公園。標高1000mに位置し、平地よりも気温が低めで、吹き抜ける風がすこぶる気持ちのいい場所だった。世界有数の規模を誇る阿蘇のカルデラ(火山噴火による巨大な凹地)と九重(くじゅう)の山々が織りなす大自然が、訪れる人を圧倒する。
そんな国立公園内に8000坪もの敷地を有する温泉旅館、界 阿蘇。客室は、この広い敷地内に露天風呂付き離れがわずか12棟という、とても贅沢な造り。全室に露天風呂が付いているので、おこもりステイにうってつけだ。ついつい部屋で過ごす時間が長くなってしまいそう!
敷地内の2本の源泉から汲み上げられる温泉は、少しとろみがあって肌にやさしく、体の芯までゆっくりと温めてくれる単純温泉。露天風呂と、内風呂にジェットバスがあり、好きな時間に好きなだけ湯浴みを楽しめる。とにかくこの露天風呂が最高。
朝の光を感じながら湯舟に浸かって目覚め、夜は湯口から注がれる水音を耳にしながら目を閉じて瞑想したり。湯上りは肌がしっとり、体のぽかぽか感が長く続き、テラスでのんびりと寛ぐ時間も極楽。
日本各地に23の施設(2024年8月現在)を展開する温泉旅館ブランドの界は、その土地ごとの個性を追求した部屋の設えも大きな魅力。界 阿蘇は12室すべてが、カルデラが育んだ自然素材をインテリアとして取り入れた“ご当地部屋”「カルデラの間」だ。
阿蘇の植物の灰や火山灰、溶岩などの鉱物を釉薬にした溶岩茶器は、界 阿蘇のために阿蘇坊窯が制作したプロダクト。濃く深い色みや手触りからも、土地の力強いエネルギーが伝わってくる。
そのほか客室には、草木染めのクッション、日田(ひた)産の下駄、小国杉(おぐにすぎ)のテーブル、いぐさのマットなど、地産の自然素材を用いて作られたアイテムがそこここに。部屋で過ごす何気ない時間も、ご当地の魅力を自然と味わえる体験に変えてくれる。
食のお楽しみも、ここだけのスペシャル感が満載
食事は本館2階にある食事処で。ここからのパノラマはまさしく絶景。ぜひ、暗くなりきらないうちから夕食を開始して。日暮れていく空の移り変わりが九重の山々をドラマティックに魅せてくれて、窓の外の情景に引き込まれてしまう。
夕食は、阿蘇の食材や調理法にこだわった「阿蘇の旬会席」(取材時にいただいたのは夏の特別会席)。界ブランドの名物ともいえる“ご当地先付け”、〈山うに豆腐のムース〉と〈からし蓮根と馬肉のタルタル仕立て〉から「いただきます」。
山うに豆腐は、うにを彷彿させる食感の豆腐の味噌漬け。熊本の名産品のひとつで、これをムースに仕立てた先付けはトロリとなめらかで、スプーンで口にいれた瞬間に目を見開いてしまう美味しさだ。そして、熊本といえばのからし蓮根と馬肉という組み合わせが絶妙だった、もう一品の先付けもここでしか出合えない味わい。初っ端からテンションが上がってしまう。
小鉢、お造り、煮物椀と感動が続き、お凌ぎで登場した南関(なんかん)そうめんも忘れられない。熊本の南関地域を中心に伝承されてきたこの素麵は、全工程を手作業で行い、時間と手間をかけて作られている希少品。強靭なコシとなめらかなのどごしが特徴で、そうと知らずに食しても、こ、これは普通の素麺ではない!!とすぐにわかるほど。生雲丹と一緒にいただき、さらに旨味が倍増する。
そしてメインは溶岩プレートで焼いた牛フィレ肉。溶岩効果で熱がしっかりと内部に行き届き、食材の味を生かした焼き上がりが素晴らしかった。すりたてのわさび、大分の名産かぼす、九州ではお馴染みの甘みのある醤油、そして柚子胡椒が用意され、好みの味付けでいただく。言葉にすると平凡になってしまうのが悔しいけれど、ふっくらとジューシーで、まさしく舌の上でトロける美味しさ。思い返すだけで、また食べたくなるほど。
〆にいただいた土鍋ごはんも、界 阿蘇特製の甘味も絶品。舌もお腹も心までも満たされて、そのまま眠りにつきたいほど。いやいや、部屋に戻ってひと休みしたらまた露天風呂に入らないと!と、“楽しい”に貪欲な旅の夜は続くのだった。
ちなみに朝は、胃にやさしく、しみじみと美味しいあさごはんが待っている。朝の湯浴みで頬をほてらせたまま、食事処へ向かう。
伝えておいた予約時間に合わせて用意されていた、土鍋で焚かれたふっくらツヤツヤの白米ごはん。“水の国”と呼ばれる熊本県は自然のフィルターでろ過されたきれいな地下水に恵まれ、湧水が豊富。美味しい水で焚かれたごはん、美味しいに決まっている。ほくほくしながら、多様なおかずと一緒にいただく。何にも急かされることなく、ゆっくりと箸を口に運ぶ贅沢な朝を堪能。
※季節、入荷状況次第で食事の内容は変わります。
滞在中のお楽しみは“カルデラ”をキーワードに
まるで自分の別荘にいるように、部屋で寛ぎ、温泉に浸ってはテラスで涼み、ベッドに寝転がって本を読む。それが界 阿蘇での過ごし方の、正解。おこもりステイの醍醐味を満喫したい。
もしそこにオプションが欲しければ、“カルデラ”を楽しむのはいかが? 界 阿蘇が用意している“ご当地楽”(その土地の伝統工芸、芸能、食などを楽しめる特別なおもてなし)の「マイカルデラづくり」はとてもユニーク。本館1階にあるカルデラBARでご当地ドリンクをいただきながら、阿蘇のカルデラの魅力を学ぶ体験プログラムだ。カルデラの成り立ちを疑似体験できるという、その具体的な方法は…参加した際のお楽しみ。
そして、界 阿蘇が用意してくれるアクティビティ「ほしぞら乗馬」は、“カルデラ”の外輪山に佇む牧場で叶う夏の乗馬体験。星空の下、馬に乗って草原を散歩するというドラマティックなひとときを過ごせる。“カルデラ”が生み出した特異な地形を眼下に望みながら、阿蘇の大自然をダイレクトに体感する—―きっと、忘れられない思い出になる。
1日、できれば2日、3日、阿蘇の空のもとで過ごしてみて欲しい。体は軽く、気持ちは穏やかで上向き、酸素が指先まで巡っている感覚。大袈裟ではなく。この広い空と大地が、美味しい空気と水が、そして宿の心地いいおもてなしが、心身を癒やしパワーをチャージしてくれる。
夏には夏ならではの良さがある阿蘇。でも秋のススキや紅葉も、冬の雪景色も、春の野焼きも見てみたい。ここは、何度も訪れたくなる場所だから、まだ未体験の人はとにかく一度目の阿蘇を体験してほしい。
※本記事は界 阿蘇のご協力のもと取材しました。