【壇蜜】「じゃないですかウィルス」から身を守る

日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載。 『今更言葉で、イマをサラッと』というテーマについて、ご本人いわく 「今更考察するのも恥ずかしい・・・でも、考察の後に見える何かを共有しませんか。あ、あくまで私見です」とのこと。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!     

その27 『 じゃないですか 』

2020年が始まって2ヵ月ほどが経過した。某国の一部地域から発生したと言われる肺炎が蔓延する危険性に世界がざわついているようだ。しかし、恐ろしいのは肺炎だけではない。この世には自覚症状がなく知らず知らずのうちにウィルス感染してしまう病がある。「じゃないですかウィルス」もそのひとつだろう。

「私って、コーヒーが好きじゃないですか」。この文章を新聞の記事で読んだときは驚いたものだ。初対面の方だったり目上の方に対して話すシーンにこれはない、という内容だった。

当時私はまだ学生で、この記事は学校の授業でも取り上げられ、指導の題材となった。「流行っているが使わないこと」と。まるでウィルスのような扱いだった。どこからやってきたのかは分からないが、つられて使ってしまうと癖になる可能性もあるので教師が指導して生徒たちに意識させるつもりだったのだろう。授業はワクチンがわりと受け止めた。以来、極力使わないことを心がけるようになった。
今でも「そんなこと知らないよ!と言いたくなるし、返答にも困るし、押し付けられると困ります・・・。実際先生もあまり知らない人に『僕って洋楽が好きじゃないですか』と言われて困りました」と力説していた女性教師の姿が忘れられない。それにしても誰に言われたのだろう。

じゃないですか。これは「~ですよね?」という発話者がちょっと自信が持てなさそうな確認の意味と、「~なんですけど、同意して理解してよね」という発話者によるやや強引な共感の誘導の意味もある。どちらにしろ「じゃ」というのは「では」をカジュアルに仕立てたようにも思える。「ないですか」も「ありませんか」より敷居が低く口語っぽいのでますますウィルスが蔓延してしまう。

じゃないですかウィルスから身を守るためには確認の意味なら「ではありませんか」に変換する。同意なら「ですよね」に。この変換トレーニングをすることが重要かもしれない。
「こちらの駅は出口が2つではありませんか?」「こちらの駅は出口が2つなんですよね」。こうしてウィルスから身を守りたい。

文/壇蜜

壇蜜
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壇蜜
タレント。さまざまな職業経験を経てグラビアデビューし、バラエティやトーク番組、ドラマ、映画でも活躍。独特の感性と表現力にも注目が集まり、執筆活動も多い。初の連作短編小説『はんぶんのユウジと』(文藝春秋)が絶賛発売中。最新刊は『結婚してみることにした。壇蜜ダイアリー2』(文藝春秋)。
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