映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『パリ13区』をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました!
心と体、恋はどちらから始まるのか?
祖母の持つ部屋で暮らすエミリーは、ルームメイトの募集広告でやってきたカミーユと一緒に暮らし始めます。「カミーユ」は一般的に女性名なのですが、現われたカミーユは男性教師。女性と暮らすつもりだったエミリーはいったんは断るものの、カミーユはちょっといい男で、奔放な彼女はそのまま関係を持ってしまい、なしくずし的にルームシェアに。エミリーは完全に彼にハマってしまいますが、カミーユにとってのエミリーは一時の遊び相手でしかありません。
一方、法律を学ぶため復学した大学で、顔立ちが似たアダルトサイトのスター、アンバーと間違えられてしまったノラは、ネット上の激しいセクハラに悩まされ退学。再就職した不動産屋にいたのは、事情により教職を休んで、友人の仕事を手伝っていたカミーユ。
「まるで聖女のよう」とノラに一目惚れした彼は彼女に猛烈にアタック、やがて二人は付き合い始めるのですが、ハラスメントがトラウマになってしまったノラは、男性と上手く関係することができません。悩むノラはふと「アンバーに対面してみよう」と思い立ち、アダルトサイトにアクセスし始めます。
恋をするとモヤモヤすることNo.1は、心と体が必ずしも一体じゃないこと。体の関係があっても、相手が自分のことを全然見ていないと感じることや、心は強くつながっていると確信している相手なのに、体の関係になることがはばかられる、とかって経験したことがある人は結構いるんじゃないかなと思います。
この物語において、一番の「ダメダメ」は間違いなくカミーユで、傲慢でうぬぼれで、エミリーを軽く扱う一方で、ノラは過剰に理想化し、この人って相手のこと何もわかっちゃいないな(何もわかろうとしない)と思うんですが、恋ってもしかしたらそういうものかも。映画は、アンバーを除くダメダメな3人が、そういう「ふわふわした恋」から一歩抜け出すまでを描いた物語といえるかもしれません。
パリの13区は中華街があることでも有名で、主人公の一人、エミリーは中華系です。カミーユはアフリカ系です。ここに、トラウマを抱えるノラとセックスワーカーのアンバーが加わり、映画は人種、職業、セクシュアリティなど、さまざまな人物への目配せがあることも特徴です。
私のお気に入りのキャラクターは、ダントツでアンバー。セックスワーカーと文字で書けば特殊に思われてしまうかもしれませんが、彼女が経験していることは、今の一般的な社会に生きる私たちと意外と変わらないなと思ったり。ノラとのやりとりでも本当に魅力的で、彼女がアンバーによって救われるのがすごくよくわかります。
4人は果たして幸せになれるのか、そして4人がたどり着く幸せの形とは。一部カラーですが大部分がモノクロの映像で切り取ったパリの町、夜の風景とかめちゃめちゃカッコいいので、そのあたりもお楽しみください。
『パリ13区』
監督・脚本/ジャック・オディアール
出演/ルーシー・チャン、マキタ・サンバ、ノエミ・メルラン、ジェニー・ベスほか
(c)PAGE 114 - France 2 Cinéma
https://longride.jp/paris13/
※4月22日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
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