ありきたりの日々に潜む些細なお悩みをおもしろく解決するコラム「ま、一杯飲んでベッラ ヴィータよ」。舞台は南麻布の架空のバー「Bar D’Amore(バール ディアモーレ)」。ジョバンナ洋子ママの愛あるトークは、引き続き絶好調。第20夜は、仲間が集う会の幹事を仰せつかった子羊がご来店。さて、今宵はどんなお叱りが繰り広げられることやら。
【第二十夜】グルメブームに翻弄されて
ボナセ〜ラ。寒さも本格的になってきて、ようやく冬到来って感じね。
今年は師走の声が聞こえてきて、ようやくウールのコートを引っ張り出すって有様だから、もうね、私も関わっているファッション業界はいちばんの高額品が売れなくてホント厳しいって話よ。
令和になって、天皇誕生日の祝日が12月23日から2月23日に変わることもあるからか、今年は仕事関係の年末の締めが早めよね〜。すでにまあまあ忘年会的な食事会が入ってきたわ。
「こんばんは。いいですか?」
おひとり? カウンターにどうぞ。何になさる?
「赤ワインがいいかな〜。何か少しつまめるものできますか?」
そうね・・・・・・。ブルーチーズ海苔お揚げでいいかしら? 最近お気に入りなんだけど。
「チーズ大好きなのでぜひ」
食サイトで高評価の店で、まさかの・・・・・・
「ところでジョバンナさん、私、今、年末にNYから帰って来る友人を交えての忘年会を仕切ることになっちゃって、困ってるんです。彼女は久しぶりの日本だから、和食がいいのかな〜と思ってたんですが、でも最旬の店に行きたいとか、いろいろこだわる仲間もいたりして」
あ〜、もうね、この問題は大変よ。ちょうど私も大失敗をやらかしたばかり。
「え? ジョバンナさんでもそんなことが?」
そうなのよ、店を決めるまで各方面から情報収集もして、かなり吟味する方だし、まあ、味にはちょっとうるさいから、鼻は効く方だと思っていたんだけど。
「どんな失敗ですか?」
仕事でお世話になっている先輩2名とごはんを食べることになって。後輩だし、周囲のグルメな人のSNSや某食サイトの採点なんかもチェックして、お店のアイデアを出したわけ。
「わかります! やっぱりそういう評価は参照しますよね」
そう、で、きっと普段彼女たちが自分で選んではいかなさそうな、スペインと中華を融合したっていう新感覚のレストランを予約したの。かなりのハイポイントだったし安心してね。
「スペインと中華の融合??」
中華料理をスペインのタパス的な少量で提供するってことみたいなんだけど。まあ、要はガストロノミー的な驚きを狙った、ん〜、だけど、すべてが「的な」上辺だけをなぞったような店だったの。
演出だけで間をもたせたって感じで。演出っていっても大した演出じゃないんだけど、もうね、食材にまったくお金をかけていない、そのうえ味はね、私が作った方が美味しいはず!
「え〜、もう災難としかいいようがないですね。そうでしょうね、このブルーチーズ海苔お揚げ、最高ですもん」
ご一緒した先輩も優しいから「店は来てみなきゃわからないから大丈夫よ」なんて慰めてくれたんだけど、本当に失礼なことになっちゃって。私も腹も立つうえに、穴があったら入りたいくらい恥ずかしかったわ。
世界的なグルメトレンドは?
「でも、そんな店、お客さん、入ってるんですか?」
それがね、満席なの。そんなお安い店じゃないのよ。
「不思議ですね。ガストロノミーってどういうんでしたっけ?」
食を文化として捉えた、発見や驚きのある革新的な美食ってところかしら?
「ミシュランの星を取っているような店に多いですよね。キムタクさんが出ているドラマ『グランメゾン東京』の料理みたいなものでしょうか」
そうそう、あのドラマ、期待せずに観てたら結構楽しめるわよね。
「イノベーティブな店は、世界的な食の流れっぽいですよね?」
そうね、私も恒例の遅い夏休みで、この間バンコクに行ったんだけど、あの街もタイ版のミシュランで星を取っている店が結構あって、食はかなり進んでいたわ。シェフがノルディックの名店で修行してバンコクに戻ってきて店を開いていたり。
「そうなんですね。タイ料理、大好きです」
ちょっとまだ星はとっていなかったけれど、コンテンポラリー系ならウォルドルフ アストリア バンコクホテルにある、Front Roomというノルディックタイ料理のレストランは、味にコントラストもあって繊細で洗練されていて悪くなかったわよ。でも泊まったホテルのThai Lao Yehが一番好きだったわ。
「やっぱり失敗してもジョバンナさんみたいに体験しないと、世界が狭まっちゃいますよね」
最近は予約しないと、それなりの店には入れなくなっちゃってるから、余計にリサーチ力が必要よね。さ、みんなが集まる貴重な時間なんだから、せいぜい頑張って仕切るのよ!
美味しいことこそ幸せ
食雑誌の有名編集長が「うちはグルメ雑誌じゃなくて食いしん坊雑誌」と話していたけれど、まさにその通り。最近のガストロノミーと言われるような店は、シェフと相当感度が合わないと、「俺の作品はどうだ!」って感じで、食べる側が置いてきぼりになることもあるわ。まあ、ひとつの芸術を鑑賞するようなことなのかもしれないけれど。
でもやっぱり食を楽しむってことは、まず何より先に「美味しい!」がきて欲しいのよね。その前提でプレゼンテーションを驚きを楽しみたいの。そういう店が増えているせいか、最近私はオーセンティックな店に惹かれがちよ。
さ、令和最初の年末だし、皆さんも気のおけない人々と美味しいものを囲んで、ワイン片手にいい時間を過ごしましょ。ボン ナターレ!
【今宵の一杯】
ペリッセロ バルバレスコ"ヴァノトゥ"
今回ご紹介するのは、イタリア北西部ピエモンテ州トレイゾ村のワイナリー、ペリッセロの赤ワインです。この土地で収穫される黒ブドウ品種、ネッビオーロから長期熟成で作られるバルバレスコと呼ばれるしっかりとした赤ワインは、“イタリアワインの女王”とも称されるほど、エレガントで女性的な味わい。
現オーナーの祖父であり創業者のニックネーム、ヴァノトゥを畑の名として冠し、ラズベリーやチェリーなどの凝縮感のある果実香、バニラを思わせるソフトな樽香も併せ持ち、まるでビロードのように滑らかな舌触りが特長。年末年始の特別なひとときに、肉料理やチーズを合わせて楽しむのに最適な赤ワインです。
Pelissero - Barbaresco DOCG “Vanotu”
ピエモンテ州
ネッビオーロ100%
750ml ¥11,000(参考小売価格)
フードライナー
078-858-2043