ずっとお弁当大好きっ子だった田中みな実さん。中学高校の6年間、母がずっと作ってくれたお弁当を思い出して恋しくなったお話。【連載「田中みな実のここだけ話」】
今月のテーマ:お弁当の思い出
入学式シーズンのインスタ投稿が終われば、今度はお弁当の投稿が目に留まる。世のお母様方の奮闘ぶりには目を見張るばかり。
SNSに疎い私が見る専用のアカウントを持ち始めたのは、当初、ご一緒させていただくタレントさんの情報収集のためだったけど、気付けばフォローしている数は間もなく1000人に達する。芸能人、インフルエンサー、カリスマ主婦、元読者モデル、ミスキャンパス…空いた時間にあらゆる人の生活を覗き見するうちに、どんどん増えていった。
いわゆるパトロールなどという斜めからの視点ではなく、人様の生活から季節を感じ、独り身だとすっかり抜け落ちてしまう行事ごとなんかを思い出させてもらえるところが気に入っている。
『きょうも息子がお弁当を残して帰ってきた。悔しいっ!』そう嘆く同世代ママの投稿を見ながらふと思う。私はお弁当を一度も残したことがなかった、と。
誰に何を言われなくても米粒一つ残さず綺麗に食べたし、何より母が作ってくれるお弁当が好きだった。中学高校6年間、朝練でド早朝に出かけたときも、大喧嘩した翌朝も、母が高熱を出した朝だって、誰より早起きして美味しいお弁当を作ってくれた。
あの頃の私は「ごちそうさまー」と、ぶっきらぼうに流しにお弁当箱をつけるだけで、「美味しかったよ」も「ありがとう」も言わなかった。当たり前に作ってくれるものだとふんぞりかえって、要求だけは一丁前にしていた生意気娘。
「今度、誰々ちゃんのお弁当みたいにオムライスにして」「誰某ちゃんの鮭ときゅうりが入った混ぜご飯をもらったら美味しかったから明日作ってね」とか。急に「お弁当箱を小さくして!」と言い出したこともある。おままごとみたいに小さな容れ物を買ってきて、「こんなので足りるの? 何も入らないじゃない」と母を困惑させた。食のいい私に母が用意してくれた二段の立派なお重みたいなお弁当箱を中2になった頃かな、クラスメイトに茶化されて、途端に恥ずかしくなってのことだと記憶している。
高校に入ってからは例に漏れず「売店でパンを買うからお弁当はいらない。お金ちょーだい」のフェーズに入る(笑)。菓子パンは腹にたまらず、放課後の部活まで体力が保たなかった。残り少ないお弁当のチャンスを、自ら不意にしてしまったことが未だに悔やまれる。
母のお弁当が恋しい。そう思って、『久しぶりにお母さんのお弁当が食べたくなっちゃった』と、メールを打つ。
いつか私も母になって、感謝もされないのに毎日子供に弁当を拵える日が来るのだろうか。心底気が進まない。
あの大きなお弁当箱は実家にまだあるだろうか。いま流行りの、おかずを米の上に綺麗に盛り付けた“映え”なのじゃなくて、上の段がおかずで下の段にご飯を敷き詰めた懐かしい母のお弁当。
作ってもらえたらそのときは、ごちそうさまのついでに6年分の感謝を伝えよう。いや、でもやっぱり気恥ずかしい。
田中みな実(たなかみなみ)
1986年11月23日生まれ。埼玉県出身。「あざとくて何が悪いの?」(テレビ朝日系)にレギュラー出演。毎週木曜22時~「あなたがしてくれなくても」(フジテレビ系)に、ファッション誌『GINGER』副編集長、新名楓役で出演中。