多くの人々の心を揺さぶってやまない川口春奈の表現力――。その源にあるのは、培われた経験や技巧ではなく、もっと無垢で柔らかな感受性。“表現”について川口さんにインタビュー。
川口春奈の表現は、今、過渡期を迎えている
俳優としては初めての朝ドラ「ちむどんどん」や記録ずくめで大きな話題を呼んだドラマ「silent」、またモデルとしてスタイルブック『I AMU HARUNA』を発売するなど、2022年は表現に邁進した一年だった。
「私は、表現する仕事が自分の天職だとはまったく思ってなくて。今もずっと手探りだし、難しいなと思うことがほとんどで、うまく表現できているかどうかはわからないままです。でも、昨年は今まで見せてこなかった自分や、今まで求められてこなかった自分を見せる機会に恵まれて、“表現の過渡期”を迎えている感覚があります。
スタイルブックでいえば、役を纏っていない等身大の自分の姿が映し出されていて、素の自分を面白がってもらえたり、認めてもらえたことがすごく励みになりました。お芝居では、ドラマ「silent」で演じた青羽紬役もそうだったんですが、いろんな現場で表情の“引き算”を求められることが多かった。『目ヂカラが強すぎるから、その強さを引いてほしい』と(笑)。パーツの問題もあるので難しい部分もありましたが、表情と感情は繋がっているので、外見的な目の動きだけじゃなく、優しさや柔らかさ、穏やかさというものを意識の部分から考えてお芝居に取り組んだ一年でした。
きっと今は、引き算の表現力をつけていかなきゃいけない時期であり、今までのイメージとは違う内面の表現を求められている。その難しさにぶつかっているところです」
上手にこなせたり、器用に何でもできるタイプじゃないと自己分析する。ちょっと弱気な顔を見せたけれど、その葛藤は求められている表現の幅が広がっているという確固たる証でもある。
「頭で考えて、計算してお芝居ができないから、すぐには答えが出ないと思う。お芝居をしているときって不思議な感覚なんです。私なんだけど私じゃなくて、感情が高ぶって涙を流していても、それを客観的に見ている自分もいる。それでいて、カットがかかった瞬間にふと我に返るみたいな。すごく本能的で、瞬発的でもあって。だから何度も同じお芝居を繰り返すのが得意じゃないんですよね」
川口春奈の個性。それは感受性
表現を支えているものをたずねると、しばらく考えたあとに「感受性ですかね」と答える。
「すぐ顔に出ちゃうので、感受性は豊かなほうだと思います。仕事のために感受性を高めて過ごしているつもりはなくて、私の個性なんだと思う。この仕事をしているから、その個性がより強くなっている気がしています。感情も体調もバイオリズムがあって、その高低差が大きくて振り回されてしんどいってことも多いけど、確実に表現の種だったり、エネルギーに繋がっているとは思います。
今日の撮影も、服が持っているパワーや雰囲気、ヘアメイク、撮影中のスタッフさんたちのテンションとか、いろんな要素が響き合って写真に映し出されている。被写体として、服をキレイに見せるのは前提のうえだけど、表情やポージングは“自動的に動いちゃってる”感じなんです。
例えば、『自分には似合わないかも』とか『着こなすのが難しそう』って感じるスタイリングを目の前にしても、前向きに挑戦しようと思えるのは、服やメイクやその瞬間の空気によって印象が一変することを知っているから。信頼しているスタッフさんたちに『似合う!』と言ってもらえると、その勢いに乗って表現してみたくなるから。その心意気の先に、想像以上のものが生まれることが多いんですよね。思いがけず面白い方向に物事が転がっていったり。だから、表現って飽きることがない。
それと、ひとつでもいいところを探す努力を大人になってできるようになったことも大きいです。人に対しても同じで、『ちょっと苦手かも?』と思っても、いいところを探してみる。根本的に合わなくても、『ここは素敵!』と思えると、自分もラクになれたりするんです。拒むのは簡単かもしれないけど、でもちょっと抗いたいじゃないですか(笑)。試行錯誤もしないで終わっちゃうのは性に合わない。
だから演じる役に対しても、何かひとつでいいから自分と重なる部分を探します。理解や共感がゼロだと心を伴って演じられないんです。たったひとつでもあれば、それを手がかりに自分のなかに落とし込んでいける。フィクションだけど、嘘なくありたいから」
表現には正解もないしゴールもない。ただひたすら自分を磨き続ける道のなかで、彼女が頼りにしているのは“OKの響き”。
「感情って声に反映されるんですよね。妥協のOKもあれば、事務的なOKもあるし、会心のOKもある。いつも完璧なコンディションで仕事が進んでいくとは限らず、時間に追われたり、制限のあるなかで最善を尽くしていくしかないんだけど、やっぱり妥協のOKは悔しいです。気持ちのいいOKって、たまらないんですよ。『これこれー!』ってなる。あの瞬間を何度でも味わいたくて頑張ってます」
川口春奈の2023年の展望は?
また、大活躍の2022年は仕事と同様、プライベートもうまくバランスが取れたと満足顔。
「以前なら息抜きのために、ひとつ作品が終わったら海外へ行くのがリフレッシュだったんですが、それがなくても心身ともにいい状態をキープできるようになれた。行きたいと思う場所に行って、食べたいと思うものを食べるとか、日常のなかで心のままに過ごせる時間が癒やしでもあり、息抜きにもなりました」
そして、最後に2023年の展望をたずねると、ニコッと大きな笑みを浮かべてこう即答した。
「引き続き、暴れん坊でいきます(笑)!」