ひとり旅は自分をリセットさせてくれるかけがえのない時間。これまでの旅の経験から、考えたことや感じたこと、学んできたことを綴る連載『ひとり旅×松本まりか=THINK CLEARLY』。
コロナ禍で、自由に旅することができない時期が続きました。でも、電車や飛行機に乗ってどこかに移動することだけが旅ではないですよね? 本を読んだり、映画を観ることでも、新しい世界に触れることはできます。それも旅と同じくらいかけがえのない経験だと思います。
私は先日、とても刺激的な映画に出合いました。それは、犬童一心監督が田中泯さんを追ったドキュメンタリー『名付けようのない踊り』です。泯さんは、俳優として数々の作品にご出演なさっていますが、もとは世界で活躍される唯一無二のダンサー。「場踊り」という、その場、その瞬間に全神経を研ぎ澄ませて生み出す即興のパフォーマンスをなさっています。いわゆる、リズムに乗せたダンスとはまったく異なる表現。瞬きひとつ、指先が数ミリずつ、自然に呼応するようにじわりじわりと動いていきます。
私が観た回では、上映後に泯さんと犬童監督のトークショーが開かれたのですが、泯さんは、「僕の踊りは映像では捉えられない」とおっしゃっていました。確かに、泯さんの踊りをそのまま2時間カメラに納めても伝わらない。この映画ではポルトガルやフランス、日本で披露された場踊りや、山梨県で農作業をされる姿などがちりばめられ、泯さんの哲学的なモノローグとともに綴られます。「これは、犬童監督が私の踊りを観たときと同じ感覚が得られるようにとこの映画をつくってくださった」とコメントされました。
もしも、20代の私がこの映画を観たら、「よくわからないな」と思ってしまったかもしれません。鑑賞後に興奮しながら、「ああ、こういう映画が沁みるようになったんだな」としみじみ思いました。ダンスとは何か。表現とは何か。人生とは……? そういう問について考えることができましたし、ものすごく響く内容なんじゃないかと思います。私はこの映画を楽しめたことがすごくうれしかった。きっとこの先10年後20年後には、さらに深く理解できるような気がします。
自分に引き寄せて、深く理解する
映画を観て「理解する」というのはふたつの意味があるのだろうと思います。ひとつは、何が描かれているのか、テーマや筋が頭でわかるということ。もうひとつは、それを自分ごととして感じ取れるということ。作品と自分とが響き合い、ちゃんと腑に落とすことができる。それには観る側の想像力も必要になります。
泯さんの踊りは、自然を感じ取って何かを発しているそうです。だから、その場にいる犬や猫などの動物が反応し、子供たちがついてきてしまったりする。頭で理解しようとする大人とは違う、原始的な反応です。言葉や理屈を超えて、観る人の心が震えるんですよね。
心を開いて作品を観て、自分の自由に解釈することって、すごく楽しい作業だと思います。私は先日、オムニバス映画『MIRRORLIARFILMS Season2』に出演しましたが、短編映画の説明されない部分はお客様や、演じる側に想像力が要されます。説明されない部分にこそ核があると思うので、きちんと本質を捉えられる大人になっていきたいですね。
Marika’s Memories/名付けようのない踊り
松本まりか
女優。ドラマ『ホリデイラブ』の井筒里奈役で一躍注目を集める。Amazon Primeにて配信中の『雨に叫べば』にて主演を務める。映画『極主夫道ザ・シネマ』が6月3日、映画『妖怪シェアハウス-白馬の王子様じゃないん怪』が6月17日公開予定。
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