ひとり旅は自分をリセットさせてくれるかけがえのない時間。これまでの旅の経験から、考えたことや感じたこと、学んできたことを綴る連載『ひとり旅×松本まりか=THINK CLEARLY』。
26〜27歳でイギリスに語学留学したとき、私は一番下のクラスに入りました。そして、留学中は日本語を決して話さないと心に決めていました。たとえ日本人に話しかけられても、英語でしか応えません。せっかく仕事を休んで留学したのですから、なんとしても英語をものにしたいと思っていたのです。
そこで友達になったのは、同じビギナークラスのふたりの男の子。ひとりはイタリア人のルカ。イタリア人というと、陽気でアクティブなイメージがありますが、ルカは真面目で思慮深いタイプ。もうひとりはトルコ人で、冗談ばかり言って周りをわかせる“ファニー・ボーイ”でした。
私たちはいつも3人で過ごしていました。学校はウィンブルドンにあったので、テニスの試合を一緒に観に行ったり、ロンドンに出て大英博物館を訪れたり、ミュージカルを観たり。ハロッズやリバティなどのデパートも巡りました。とはいえ、3人とも貧乏学生。高級デパートに入ったところで買えるものもありません(笑)。ピカピカの高級車でハロッズに乗り付け、買い物をする富豪風のお客さんらを、社会科見学するような目で眺めていました。
ロンドンは物価が高く、薄いカチカチのパンのサンドイッチでさえ、500〜600円しました。節約のためにランチを抜くこともしばしば。ルカとファニー・ボーイは紳士で、ふたりの財布も寂しいはずなのに、食事の席では私にごちそうしてくれたり、少し多めに支払ってくれたりしていました。
ふたりと仲よくなったきっかけは、あるトラブルでした。留学して間もないころ、カフェでちょっと席を立った隙に、バッグとたった今買ったばかりのiPhoneを盗まれてしまったのです。片言の英語で警察やらカード会社やらに被害を説明するのは本当に骨が折れました。カフェに同席していたルカは、夜遅くまで付き添ってくれて、ファニー・ボーイもあとから合流し、一緒に私の持ち物を捜してくれました。学校の宿題は毎日山のように出ていて、本当は時間がないはずなのに、知り合って間もない私を助けてくれました。言葉や文化が違っても、心を寄せ合えるのだということを学び、優しいふたりのことを心から尊敬しました。
すっかり仲よしになって、少ししたころに、ルカには故郷に残したフィアンセがいるといことを知りました。それを聞いたとき、私の胸の奥がチクリ。あれ? もしかして私、動揺してる!?
今もなお、大切な友達として。
ルカのフィアンセは、私たちから3ヵ月遅れて同じ学校に入学しました。ルカが好きになるだけあって、とても素敵な女の子でした。その後、私たちは猛勉強し、学年でトップというくらい3人とも成績が伸び、卒業時には上級者クラスになっていました。それからしばらくして、イタリア旅行をしたとき、私はルカに再会することができました。彼は当時のフィアンセと結婚し、お父さんになっていました。英語を活かした仕事に就き、活躍しています。今ではルカの奥様も私の大切な友達です。
はやくから俳優の仕事を始めた私にとって、何者でもないひとりの女の子として過ごしたイギリス留学は、遅れてきた青春のようなもの。思い返すと、ほんの少しだけ甘酸っぱい味がします。
Marika’s Memories/ルカとの青春の思い出
松本まりか(まつもとまりか)
女優。ドラマ『ホリデイラブ』の井筒里奈役で一躍注目を集める。Amazon Primeにて配信中の『雨に叫べば』にて主演を務める。短編映画『MIRRORLIAR FILMS Season2』が2月より順次公開予定。土曜ナイトドラマ『妖怪シェアハウス-帰ってきたん怪-』が、4月より放送予定。
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