ひとり旅は自分をリセットさせてくれるかけがえのない時間。これまでの旅の経験から、考えたことや感じたこと、学んできたことを綴る連載『ひとり旅×松本まりか=THINK CLEARLY』。
旅にトラブルやアクシデントはつきもの。でも、私は基本的にスリリングな旅が好きです。
まず、プライベートな旅では、飛行機に乗るのも列車に乗るのも無駄な時間がないようにします。「もう無理! 間に合わない!」というようなときでも乗れなかったことは一度もありません……と言いたいところですが、一度だけ飛行機に乗り遅れたことがありました。パリからロンドンに渡ろうとしたとき、シャルル・ド・ゴール空港が複雑すぎて断念しました。イギリスとヨーロッパを結ぶ国際列車ユーロスターに乗ればいいとわかっていたから、予定の便を逃すことができたのだと思います。
宿は、前もって予約はせず、現地についてから探します。到着が夜になり、泊まるところが見つからないということもたびたび起こります。いよいよ野宿か!?と思うようなときにも誰かが助けてくれて、最後にはなんとかなりました。
言葉の通じない外国での一人旅は、スリリングな経験にこと欠きません。タイの看板なんてタイ語の読めない私にはちんぷんかんぷん。韓国のタクシーでは英語が通じなくて往生しました。地下鉄にエレベーターがなく、何十段もの階段を、大きなスーケースを息を切らしながら運んだこともありました。
一人旅を通して、私は故意に自分に試練を与えているような気もします。なぜなら、人生には予期せぬことがしばしば起こります。そのときに乗り越えられるように、普段から自分を鍛えておかないといけないと思うのです。なにごとも、始める前から「そんなの無理!」というのは嫌なんです。無理かどうかなんて、やってみなければわかりません。そうして、女性一人では無謀と言われるような土地にも数々訪れてきました。
火事場の馬鹿力ではありませんが、人間、ピンチに陥ると、ものすごい知恵を働かせます。いまの自分には何があり、どうしたらその危機から抜け出せるか。普段は眠っている自分の能力を目覚めさせることができます。そうして、自分の力でトラブルを乗り越えられたときの喜びは何にも代えがたいものです。日常でもピンチに追い込まれたときに「絶対になんとかなる」という自信にもつながるのだと思います。
パスポートと財布をいっぺんに失って……
これまでの旅で絶体絶命と思ったのは、パリでパスポートと財布を盗まれたときです。イギリス留学の帰りにパリに立ち寄り、数日過ごしたのちに帰国する予定で、帰国便は決まっていました。ところがパリに着いた初日にエッフェル塔でスリにやられました。被害届を出し、大使館に駆け込みましたが、再発行には時間がかかり、結局、帰国便を取り直すことになり、パリ滞在を延長せざるを得なくなりました。10年くらい前のことで、いまほど航空券の手配も簡単にはできなかったので苦労しました。
でも、そのおかげで、パリでものすごくおいしいフレンチベトナムのレストランに出合いました。そこでいただいたタマリンドスープは、忘れられないほど美味でした。後年、パリを訪れたときにさんざん探しましたが、残念ながらその店を見つけることはできませんでした。
旅は人生の縮図です。生きる強さを養うために旅に出て、私は自分を成長させたいと思っています。
Marika’s Memories/衝動に駆られて
留学を終えた1年後の2012年6月。大きな出来事に直面していた私は、恵比寿の大衆的な餃子屋さんでふと、一度ヨーロッパに戻ろう!という衝動に駆られ旅に出ました。ロンドン、パリ、アムステルダムは歴史的建造物が残っていますが、ケルンは敗戦により残っておらず、戦争の遺物を考えさせられました。写真は両方パリ、セーヌ川付近。
松本まりか(まつもとまりか)
女優。ドラマ『ホリデイラブ』の井筒里奈役で一躍注目を集める。『竜の道 二つの顔の復讐者』『妖怪シェアハウス』『先生を消す方程式。』『教場Ⅱ』など8本のドラマに出演。『東京、愛だの、恋だの』、『それでも愛を誓いますか?』それぞれの主演を務める。
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