林遣都さんが俳優としてのキャリアをスタートさせたのは15歳のころ。確固たる夢を抱く前に、進み出した人生を歩むうちにそれが天職であることに気付く。俳優生活15年目、30歳となる林さんが抱く、現在の人生観を聞いた。
修学旅行でのスカウトが俳優のスタート地点
デビュー作となった映画『バッテリー』で主演に大抜擢され、17歳という年齢で日本アカデミー賞をはじめ多くの新人賞を受賞。俳優生活15年目となる今、林遣都さんは30歳に。林さんの“現在地”を導くきっかけとなったのは、渋谷駅でのスカウトという逸話から始まる。
「中学3年生の修学旅行で東京に来たときに、事務所の方に声をかけていただきました。自然豊かな滋賀県で育ったので、芸能界に入るなど考えたことがなく、興味を抱くことすらなかったのですが(笑)。それから1年ぐらい、オーディションやレッスンで週末に東京まで通っていました。初めてのお仕事は中学3年生のとき、ティーン向け雑誌の撮影でした。テレビで見たこともある女性モデルさんがたくさんいるなかで、デート企画の相手役を。写真なんて撮られることもなかったので、恥ずかしかったし、とてもドキドキしたことを覚えています」
2007年公開の映画『バッテリー』で主演として俳優デビュー。紛れもなくこの作品が、林さんのターニングポイントになった。
「映画やドラマが好きだから俳優になりたい!というスタートではなく、まだ自分の夢が確立されていない時点で未来に繋がるものが動き出していたんです。天海祐希さん、岸谷五朗さん、菅原文太さん…デビュー作『バッテリー』で初めてお仕事させていただいた役者さんが、すごい方たちばかりで。当時、俳優という仕事についてまだ何もわからなかったですが、『こういうカッコいい大人になりたい』と憧れの念を強く抱きました。今の自分のベースは、やはりこの方たちにあると思います。俳優という仕事に対して、腹を括り真剣に向き合おうと思ったのは、高校3年生のとき。進路をどうしようか…というタイミングで、『バッテリー』で自分を見つけてくれた滝田洋二郎監督に連絡してみたのです。『本当にこの仕事をやっていけるのか?』と葛藤していた時期でもあり、大学に行くのか、上京して俳優としてやっていくのか、電話をして話を聞いていただきました。『自分の好きなようにしたらいいと思うけれども、役者をやっていくのであれば、ずっと勉強をすることだけは忘れないで』という言葉を滝田さんからいただき、上京する決意をしました」
この仕事のおかげで彩りある人生にすることができた
「火花」では売れない若手漫才芸人、「べっぴんさん」ではプロを目指すジャズドラマー、「おっさんずラブ」では先輩男子に恋心を抱くドS後輩男子を見事に演じ、同世代の俳優のなかでも頭一つ抜けた存在感を放つ。渋谷でスカウトされてから15年――この年月は林さんにとって、どんな時間となったのだろうか。
「この仕事は、間違いなく『出合えて良かった』と思えるもの。そういう仕事に出合えた自分は恵まれているなと感じます。本当に何の目標もない学生時代を過ごしていたので、お芝居をやっていなかったらどうなっていたんだろう(笑)。仕事のおかげでいろんな人に出会えましたし、彩りある人生にすることができています。苦しんだこともたくさんありますが、良いことも悪いことも全部含めて、今は自分の人生として捉えることができています。15年間、役者を続けられた理由は、純粋に自分が“夢中になれるもの”だったから。撮影やお芝居をしているときが一番楽しいと感じられるんです。また、作品を観て家族が喜んでくれたり、作品を楽しみに観てくださる方々もたくさんいてくださり――お芝居を通して誰かが何かを受け取ってくれて、その人の生活や人生に少しでも良い影響を与えることができる。ここ数年はそんなことが自覚でき、お芝居をする喜びとなっています」
11月12日に公開される映画『恋する寄生虫』では、極度な潔癖症で孤独な青年・高坂賢吾を演じ、また一つ俳優として新しい扉を開いた。
「“寄生虫”が映画の一つの題材となっていて、現実には起こり得ないファンタジーの要素が含まれる作品。人間のリアルな感情ではないところで、虫によって感情が動かされているんです。基本的にどんな役でも、演じるときは『嘘がないように』ということを心掛けてお芝居をしていますが、自分が普段大切にしている部分やアプローチの仕方ではたして噛み合うのか…という不安や葛藤は、脚本を読んだ段階でありました。でも、そういうところに飛び込んでみたいなという思いも大きく、とてもワクワクしました。小松菜奈さんとは初めて共演させていただいたのですが、現実に起こり得ない話を菜奈ちゃんは説得力を持って演じることができる――この“映える”小松菜奈の魅力は何だろうと、じっくり観察しましたね。いろいろな感覚を研ぎ澄まして日々を過ごさなければと改めて痛感させられました。素晴らしい役者さんの共通点は、人間味のある生き方をしていること。良い意味で感覚が普通であり、いつでもどんな人にも寄り添う姿勢で、日常を過ごしていらっしゃる方が多い。だから、どんな役にでもなれるんです。役者だからと言って何か突飛なことをするのではなく、これからも日常を感じ、日々を豊かにして生きていくことを心掛けたいなと思っています」
林遣都(はやしけんと)
1990年12月6日生まれ、滋賀県出身。2007年、映画『バッテリー』で主演デビュー。その高い演技力が評価され、日本アカデミー賞など数々の新人賞を受賞。以後テレビドラマなどでも幅広く活躍する。主な出演作には映画『ダイブ!!』『風が強く吹いている』『しゃぼん玉』『私をくいとめて』『犬部!』、ドラマ・映画『おっさんずラブ』シリーズなどがある。
映画『恋する寄生虫』
極度の潔癖症で人と関わることができずに生きてきた青年・高坂賢吾(林遣都)。ある日、見知らぬ男から視線恐怖症で不登校の高校生・佐薙ひじり(小松菜奈)と友達になって面倒を見てほしい、という奇妙な依頼を受ける。露悪的な態度をとる佐薙に辟易していた高坂だったが、それが自分の弱さを隠すためだと気付き、共感を抱くようになる。世界の終わりを願っていたはずの孤独な二人はやがて惹かれ合い、恋に落ちていくが…。切なくも美しい、“恋×虫”ラブストーリー。
出演/林遣都、小松菜奈、井浦新、石橋凌
配給/KADOKAWA
11月12日(金)全国ロードショー。
https://koi-kiseichu.jp/
(c)2021映画「恋する寄生虫」製作委員会