日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第46回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その46『ちょっと』
ちょっとちょうだい。ちょっと待ってて。ちょっと痛いですよ。… 「ちょっと」というのは日常会話の中で頻繁に使われるが、ちょっとの程度は個人個人で違う。ちょっとちょうだいと言われてごっそり持って行かれたり、ちょっと待っててがかなり長く感じたり、ちょっとどころじゃなく痛い思いをした経験はないだろうか。不思議なことに、「ちょっと」と言ってきた相手の方が受け手の感じる「ちょっと」より長かったり強かったり、「ちょっとじゃないじゃん!」と突っ込みたくなるようなマイナス感情に働きかけてくる場合が多い。
ちょっと毛足をスッキリさせますね、とトリマー殿に言われ、長毛種の愛犬が見事な短毛種になって帰ってきたとため息をついていた知人をいつも思い出す。モップみたいなロングがヤギみたいになっており驚愕したという。ちょっと、による摩擦はさまざまな所で起きているのだ。
ちょっと。漢字では「一寸」と書く。寸は親指の幅が由来しているらしく、小さいものを表す。大体3センチくらいだという。本当にわずかな時間、距離、大きさなら「一寸」と使っても違和感はないが、ここ最近の一寸は一寸が生まれたときより広い意味を持ち始めているのかもしれない。一寸の解釈、価値観の巨大化…文字にすると何とも奇妙な現象だ。ちなみに一寸は「鳥渡」とも書く。ほとんど使用されないうえに当て字ではあるが、鳥の歩幅がチョコチョコと小さいというのを当てはめたような背景が想像できて可愛いなと思った。
ちょっと摩擦が起きればその後の印象がマイナスになりかねない。 家族や友達ではない、社会的な繋がりしかないような方との「ちょっと」のやり取りは十分に注意したい。予防策として「○○分ほどお待ち頂くかもしれません」「私は平気でしたが、人によっては痛みを感じると言われています」とちょっとに頼らない説明を丁寧すぎるくらい丁寧にすることも配慮であり思いやりだろう。そこで「ちょっとって言いたかったですが、個人差ありますよね」と伝えて相手の同意を得られたら万万歳だ。
壇蜜の【今更言葉で、イマをサラッと】をもっと読む。