ひとり旅は自分をリセットさせてくれるかけがえのない時間。これまでの旅の経験から、考えたことや感じたこと、学んできたことを綴る連載『ひとり旅×松本まりか=THINK CLEARLY』。
前回もお伝えしましたが、私はこの春に引っ越しをしました。新居はとても静かなエリアで、耳を澄ますと噴水のサラサラと流れる音が聞こえてきます。
一定のリズムを打つ水の音は、耳にするだけで心が安らいでいきます。昔、バリを旅したときに、滝のそばでマッサージを受けたことがありました。大量の水が叩きつけられ、会話がかき消されるくらいの轟音でしたが、ちっとも嫌ではありませんでした。自分だけの世界に引き込まれるようで、とても心地よかった。そう感じられたのも、きっと自然が生み出す音色だったからなのでしょう。
多忙ななかでの引っ越し、私はシンプルになりたかったので、家具もシンプルなものを選ぶだろうと想像していました。ところが、実際は逆でした。心惹かれたものはどれも個性的。ダイニングテーブルは丸や三角を組み合わせたアーティスティックなデザインですし、一目惚れしたラグはユニークな形や、ユニコーン柄でした。
好きなものを個々に買い集めても、それらがちゃんと調和するのか、正直心配でした。ところが、実際に部屋に置いてみたら、それぞれの個性がマッチして、「私の理想空間」ができあがっていました。
旅するように自分を削ぎ落とす
リビングのテーブルはガラスにしました。指紋や水滴の跡がつきますから、気が抜けません。けれども、手入れの楽な木製ではなく、ガラスにこだわりたかったのです。これを毎日磨いていたいと思いました。家にいる間はしきりに掃除をしています。塵のひとつも落としたくはありません。忙しい日々のなかでも、生活空間を澄んだままで保ちたいという思いと重なっているような気がします。
クリスタルのように、常に自分を磨いて、磨いて。そうして、感覚をさらに研ぎ澄ませたい。そうすることがお芝居や、人生において欠かせないと信じているからです。
そんななか、最近夢中になっていることがあります。それはお花を生けることです。気づけばフラワーベースをいくつも買い揃えていました。直感で気になった花を1、2輪ずつ何種類か買い、それぞれの花瓶に合わせて、自分流にアレンジしていくのが楽しくてなりません。同系色で合わせてみたり、わざと不均衡に生けてみたり。気づけば2時間くらいお花と戯れていました(笑)。1日の終わりに全てを忘れて、心の赴くまま自由なクリエイティブに没入する。そうすることでエネルギーがみなぎるのを感じました。
リビングやキッチン、洗面台など、そこここに花を飾っています。自然を身近に感じていたいという気持ちの表れなのだと思います。洗面台には、2色の珪藻土のプレートをずらして重ね、その上に花瓶と薄いガラスのコップを置くことにしました。手荒な扱いをすればすぐに割れてしまいます。けれども、朝の支度でバタバタする空間に繊細なものを置くことで、自分を「矯正したい」と考えたのです。丁寧な仕事をしたいからこそ、丁寧な生活をする。
窓から空を見上げると「空ってこんなにきれいだったんだ」と感じます。空に感動できなければ、空の美しさを人に伝えることはできません。これまでは旅のなかで磨いてきた五感、第六感を、新しい部屋で取り戻そうとしています。
Marika’s Memories/日々の記録
丁寧な暮らしをするために
松本まりか(まつもとまりか)
女優。ドラマ『ホリデイラブ』の井筒里奈役で一躍注目を集める。2020年は『竜の道 二つの顔の復讐者』『妖怪シェアハウス』『先生を消す方程式。』『教場Ⅱ』など8本のドラマに出演。
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