ひとり旅は自分をリセットさせてくれるかけがえのない時間。これまでの旅の経験から、考えたことや感じたこと、学んできたことを綴る連載『ひとり旅×松本まりか=THINK CLEARLY』。
旅に出ているときの私はとてもアクティブです。言葉の通じない海外では、思いを伝えようと懸命になります。そのときに痛感するのは、人を動かすものは、やはり「心」なのだということです。
当たり前ですが、日本語ならば自分の思いどおりに言葉を操れます。微妙なニュアンスも説明できますし、直接的な言葉を使わなくても、言外に真意を込めることもできるでしょう。けれども、そのぶん「こんなことを言ってはいけないのでは?」「この言い方は誤解されるかも?」など、余計な意識が働いて、素直に話すのが難しくなることもあります。
その点、異国の地ではシンプルです。豊富な語彙はありませんから、拙い言葉を重ねることで、言葉よりも「伝えたい!」という思いが先行します。相手にとってみれば、私は一外国人観光客にすぎません。でも、「あなたの国のことをもっと知りたい!」という熱意が伝わると、それに応えようとしてくださり、その交流をきっかけに、一気に距離が縮まって「友達」になれることもあります。
生と死を見つめた、ガンジス川のほとり
2年前に訪れたインドのバラナシでのこと。ガンジス川を見ようと私はタクシーに乗りました。ところがそのタクシーの運転手さんはヒンディー語しか話せず、そこにいきなり英語のできる青年が乗ってきたのです。「どこに行きたいの?」「何したいの?」と青年はものすごい勢いで尋ねてきました。英語のガイドを買って出ることで、お金をもらう算段だったのだと思います。いくら請求されるかわからない押し売りガイドなんて、断るのが普通なのかもしれません。でも、街の情報を何も持たない、いきあたりばったりの私にとってはラッキーな申し出でした。現地の人しか知らない情報を教えてもらえますし、インドについて詳しく聞くこともできます。そうして、私はガンジス川のほとりの火葬場に連れて行ってもらいました。静かに燃える火の周りを、遺族の方がぐるぐると歩きながら祈りを捧げていました。参加できるのは男性だけ。遺体は3日かけてガンジス川まで運んできたそうです。火葬場の横では、子供たちが元気に泳いでおり、生と死の両方が見てとれる、哀しくも神秘的な光景でした。
それはヒンズー教の葬儀でしたが、案内をしてくれた青年はムスリムでした。インドは約8割の人がヒンズー教徒で、イスラム教徒はわずか1割強。ムスリムとヒンズー教徒が共存しているのは不思議に思えて、どういう感覚なのかと私は彼に尋ねました。するとそこからは宗教観や死生観など、普段、日本の友達とは話さないような深いテーマについて私たちは熱く話し込んでしまいました。お金儲けをしようと思っていただけかもしれない彼と、一瞬にして心の深い交流が生まれるほどの仲になれる。そのことに私は興奮しました。
異なる文化に生まれ育った外国人の方とは、価値観の違いが大前提にあります。だからこそ、相手を理解しようと努力します。日本人同士では「なぜわかってくれないの?」とつい思ってしまうけれど、人なんて、一人ひとり違うもの。旅は、そんな日常の当たり前のことに気づかせてくれます。
Marika’s Memories/旅の記録
現地の人に知り合えたからこそ辿りつけた場所
松本まりか(まつもとまりか)
女優。ドラマ「ホリデイラブ」の井筒里奈役で一躍注目を集める。2020年は「竜の道—二つの顔の復讐者」「妖怪シェアハウス」「先生を消す方程式。」「教場Ⅱ」など8本のドラマに出演。4月10日(土)からスタートしたオトナの土ドラ「最高のオバハン 中島ハルコ」が好評。5月14日(金)から連続ドラマ初主演となる「向こうの果て」(WOWOW)が放送になる。