デビューから20年、決して順風満帆ではなかった女優・松本まりか。「今の自分があるのは旅のおかげ」と語る彼女のひとり旅の記録を紹介する連載『ひとり旅×松本まりか=THINK CLEARLY』。
旅が好きです。今の私の多くの部分を、旅の経験が形作ってくれたのではないかと思います。ひとり旅は私にたくさんのことを教えてくれました。
はじめて旅の魅力を知ったのは17か18歳のときです。友達から預かったダックスフンドの赤ちゃんと東京から九州まで行きました。飛行機と新幹線を乗り継いで熊本あたりまで行った記憶があります。今のように、スマートフォンで一瞬にして地図や乗り継ぎ方法が出てくるようなことはなかったので、切符を買うのも、知らない電車に乗るのもひと苦労。ちょっとした「冒険」でした。
15歳ですでにデビューはしていたものの、当時の私は東京の実家暮らし。母や兄や祖父母らとともに川の字で寝ているような家庭だったので、早くから「家を出たい」「ひとりになりたい」と思っていました。当時の私にとって、最もはやい「ひとりになること」=「ひとり旅」だったんですね。ひとりになることは寂しいし、怖いことでもあった半面、知らない世界に飛び込むのはワクワクしました。帰ってきたときには少し大人になれたように感じました。
まっさらな自由のなかに自分を置いてみる
最近は忙しくなって、なかなか旅に出られませんが、最後に長い旅に行ったのは2年前。仕事も兼ねていましたが、韓国、インド、ベトナム、タイなどを回りました。
私の旅は、基本的に計画を何も立てない、気ままなひとり旅です。海外旅行でも行きの飛行機だけおさえて、宿は現地で探します。どこへ移動し、どの街から帰国することになるか、行ってみなければわからないので、帰りの便もとりません。もちろん、毎回ハプニングの連続、それがスリリングでもあり、楽しくてたまらないのです。
無計画で旅に出る理由はほかにもあります。何をしてもいい、自由でまっさらな状態に身を置いたとき、自分の純粋な「好き」が浮かび上がるんです。普段、忙しい日常に追われていると、自分は何が好きなのか、何をしたいのか、本当はどんな気持ちなのか…がわからなくなってしまいます。考えなくても日々は回していくことができます。でも、それでは自分の心を見失ってしまいます。
魅力的な俳優になるために、人間力を磨く
ひとりで旅に出れば、自然と自身を見つめる時間が多くなります。時には見たくはない自分の暗部を見ることにもなり、痛みを伴います。私は女優をしながら、なかなか人に求められなかった約20年間、徹底的に自分を見つめてきました。魅力的な俳優になるには、魅力的な人にならなければいけない。俳優の仕事を通して人間力が磨かれる場合もありますが、私はその機会を多く得られなかったので、まずは人間力を磨こうと思いました。そのためには、いかに「甘えられる環境」を排除するか。自分が甘えてしまう人間であることをよくわかっていたので、そうならない場に身を置こうとしたんです。ひとり旅は、それにはうってつけの場でもありました。
Marika’s Memories/旅の記録
インド・ガンジス川で生と死について考えた
2019年5月、今まで行った国のなかで、最も忘れられない場所、インドのガンジス川。生と死が混在し、生きとし生けるもののすべてがここに集約され、計り知れないエネルギーにただただ圧倒されるばかりでした。
松本まりか(まつもとまりか)
女優。ドラマ「ホリデイラブ」の井筒里奈役で一躍注目を集める。2020年は「竜の道—二つの顔の復讐者」「妖怪シェアハウス」「先生を消す方程式。」「教場Ⅱ」など8本のドラマに出演。4月10日(土)からオトナの土ドラ「最高のオバハン 中島ハルコ」、5月14日(金)から連続ドラマ初主演となる「向こうの果て」(WOWOW)が放送になる。