ヘア&メイクアップアーティスト 木部明美さんの人気連載「おとなメイク実験室」通称“キベラボ”。 毎月さまざまなテーマを決めて、木部さんの感性が光るメイクのTIPSをお届けしています。
今回は、木部さんの地元である埼玉県深谷市でバラを栽培し、食品やコスメを製造している女性起業家がいるという情報に、深谷を愛する木部さんのアンテナがビビッと反応! さっそく東京のオフィスへ取材に行ってきました。
安心して食べられるバラだけを栽培
今回取材させていただいたのは、バラの栽培からバラを使った食品やコスメの製造販売までを行うROSE LABO(ローズラボ)の代表取締役 田中綾華さん。
木部 初めまして。インスタで見て、ずっと気になっていました!
田中 ありがとうございます。うれしいです。
木部 深谷のどのあたりなんですか?
田中 バラ園があるのは大谷で、私が住んでいるのはこのへん(地図を指差しながら)で・・・
木部 え、本当ですか。私、深谷に帰ると必ずそのあたりにあるゴン太っていうお店で、レバニラとハイボールを・・・(以下、地元トークが続くため割愛)
木部 ところで、どうして深谷でバラを?
田中深谷は、バラを栽培するのに最適な場所なんです。バラの花は、積算温度といって、1日の平均温度を毎日足し算して1,000度になったときに咲きます。つまり暖かければ暖かいほど早く咲くわけです。そこで最初は、日本で一番、夏が暑い街として有名な熊谷にしようかと思ったのですが、それだと紫外線が強すぎて。バラも日焼けしてしまうので、紫外線量も考え合わせた結果、深谷に決めました。
木部 確かに、夏は暑いんですよね。熊谷と一緒で、赤城山からのからっ風が・・・(以下、地元トークが続くため割愛)
木部 その深谷のバラ園で、どんなバラを育てているんですか?
田中 私たちは食べられるバラだけを生産する会社です。食用バラを育てている農家さんのなかには、観賞用と両方育てているというところが多いのですが、私たちは食べられるバラだけに絞っています。なぜかというと、例えば食用バラは無農薬で育てても、観賞用に農薬を使っていると飛んできてしまう可能性がある。それだと、お客様には安心してもらえません。
木部 無農薬にこだわっているんですね。
田中 そうです。それから、農薬だけでなく、土も使っていなくて。
木部 土も!?
田中 そうなんです、土の代わりにロックウールというスポンジのようなものを土台として、そこにバラの根を這わせる方法で育てています。土に比べて品質を安定させることができ、さらには虫が付きにくいなどのメリットもあります。これも、衛生面でお客様に安心していただくためのこだわりです。
バラがあると女性は強くなれる
木部 バラへの愛が伝わってきますね。そもそも、なぜバラの栽培を始められたんですか?
田中 きっかけは大学生のとき、自分が夢や目標を持てないことに悩んだことでした。実は私、中高生のころは友人関係を気にするあまりに、何でも人の顔色を伺って、合わせてばかりだったんです。「何がいい?」って聞かれると「何でもいいよ」って答えるタイプ(笑)。
木部 思春期あるあるですね。
田中 ですね。でも大学生になったら、将来の目標をきちんと持って頑張っている人が周りにたくさんいて。すごく劣等感を覚えました。私、いったい誰の人生を生きているんだろうって。そのとき初めて、自分の人生について真剣に考えました。そしてひとつの結論として、自分の人生のなかで仕事はすごく重要だなと思ったんです。仕事というものは必ずついてくる。だったら好きなコトを仕事にしない限りは、ハッピーではいられないと。
木部 周りの人から、いい刺激を受けたんですね。
田中 実は私の曾祖母は、起業家でした。なんと7人もの子育てをしながら、鞄と靴の製造販売の会社を成功させた人。私にとっては本当にかっこよくて憧れの人だったので、その影響もあるのかもしれません。そしてその曾祖母が、バラが大好きだったんです。バラがあると女性は強くなれると言っていて、我が家ではバラがお守りのような存在でした。
木部 じゃあ小さいころから田中さんもバラがお好きだったんですか?
田中 そうなんです。そして、将来について考えていたちょうどそのころ、母から「食べられるバラ」というものの存在を聞き、すごく可能性を感じました。昔からバラは好きだったけれど、食べられるとは思ってもみなかった、それは私の固定観念だったんだなと。そんな思い込みのせいで、自分の好きなモノの可能性を狭めてしまっていたなんて!と、ある意味ショックを受けて。そこで、私がやりたいことはこれだと思って、親に内緒で大学を中退し、大阪のバラ農家さんのところへ泊まりこみで修行へ行きました。
木部 すごい行動力!
田中 農業は知識と経験がすべて。家族にまったく農家がいなかった私が、農家で育った人や農業学校に通っている同世代に負けないためには、1秒でも早く修行しなければと思いました。
木部 でもご両親には怒られたのでは?
田中 はい(苦笑)。でも、両親も私が夢を持てなくて悩んでいることを知っていたので、最終的には協力してくれました。独立して起業したときには、母が手伝ってくれたんですよ。学生からそのまま起業することになったので、社会人経験もなく、すべて自己流でやろうとしていた私を見かねて(笑)。
加工品製造は、地元の和菓子屋で!?
木部 起業されたのは4年前ということで、急成長されていますよね。栽培は、最初からうまくいったんですか?
田中 いいえ、最初は全部のバラを枯らしてしまったこともありました。そのときは、愛情を込めて育てた生き物を殺してしまったような感覚になってつらかった。それに、栽培を手伝ってくれているパートさんたちも、一生懸命に世話をしてくれているのに、私の勉強不足のせいでどうにもできないのが情けなくて。もっと勉強して、絶対元気よく咲かせようと心に誓いました。そしたら次は、きれいに咲いたら咲いたで、そのバラが思うように売れなくて。
木部 バラそのものを売っていたんですか?
田中 そうです。実は今も、製造販売だけでなく、飲食店や食品メーカーへの卸も本格的に行っています。でも最初は、なかなか取引をしてもらえなくて。営業担当はもちろん私ひとりだったのですが、「こんな若い人で大丈夫なの?」と言われてろくに取り合ってもらえないこともしばしば。駅のホームで悔し泣きをしたこともありました。
木部 わー、それはつらい。
田中 結果的には、何がいけなかったということを冷静に見つめる機会になって、自分のスキルも上がっていったので、よかったんです。実はそのころに、余ったバラをムダにしたくない一心で、ふと思いついてジャムを作ってみたんです。栽培メンバーのみんなに配ったらよろこんでもらえるかな?と。それがきっかけで、食品やコスメの製造販売スタートすることになりました。
木部 そうだったんですね。食品はどこで・・・って「ねだち」!?
田中 そうです、ジャムやコーディアルは深谷の和菓子屋「ねだち」さんに作っていただいています。
木部 知っています、昔からあるお団子屋さんじゃないですか。まさかあの「ねだち」がこんなにおしゃれなものを作っているなんて。
田中 栽培メンバーが全員、深谷出身なので、つてを辿ってお願いすることができたんです。「あいつなら作れると思う」って(笑)。そうやってどんどん、たくさんの人に協力していただいて、ここまで来ることができました。
木部 それはきっと、田中さんに人を惹きつける力があるからですね。
田中 私、人の運は本当にいいんです。私の周りにはいい人ばっかりで本当にありがたく思っています。それに深谷って、本当にいい街なんですよ。人もいいし環境もいいし、本当に最高。
木部 田中さん・・・(感動)。きれいな赤城山とか、澄んだ空気とか、のどかな風景とか。私も定期的に帰りたいと思うし、お正月は絶対に深谷で過ごしたいって思っています。そうそう、7月の深谷まつりでは毎年、太鼓も叩くしお神輿も担いでいるので、よかったら田中さんも。
田中 あ~深谷まつり! 私も昨年、見に行きました。深谷という街にはお世話になっているので、ROSE LABOをもっと盛り上げて、恩返しをしたいですね。
木部 今日はお会いできてよかったです。次はぜひ深谷の農園に遊びに行かせてください。
田中 ぜひぜひ! 今日は本当にありがとうございました。
次回は、ROSE LABO の商品を詳しく紹介していきます。お楽しみに!