小説から漫画までジャンルを問わず、本好きとして知られる女優 多部未華子さんの連載「多部未華子がBOOKコンシェルジュ!」。読者からの本選びの相談や質問に応えて、オススメ本をご紹介します。
vol.41 実話をもとにした小説を読んで、知らない世界を覗いてみたいです
《読者からのリクエスト》
最近は、テレワークでおうち時間が長く、オンとオフの切り替えがしづらくて困っています。生活に少し刺激や変化がほしいと思っていますが、このご時世なので外出は控えめ、気分転換がしにくいです。家にいながらも、世の中の出来事をリアルに感じることで、気晴らしがしたい!
《多部さんのオススメは・・・》
獄中から出られない人の言葉に、ここまで自分の環境や人生を変えられてしまうなんて!
こんなことを言うと気持ち悪いと思われるかもしれませんが、猟奇的な事件や不可解な事件、未解決事件などの記事を読むのがわりと好きなもので、ノンフィクションや実話をもとにした小説に目がない私です。
柚木麻子さんの『ナイルパーチの女子会』ファンの私は、本屋さんの新刊コーナーで『BUTTER』を発見して「あれ? これってあの事件をもとに書いているのかしら?」と瞬時に察し、すぐにレジに向かったのを覚えています。柚木さんの作品で実話をもとになんて、私の“好き”が詰まってる! 面白くないわけがない!!と興奮気味でした。
結婚詐欺をはたらき、殺人罪で逮捕された梶井真奈子。彼女は特別美人なわけでも若いわけでもないのに、3人の男を誘惑し、殺した。そして、獄中にいる梶井を取材をすることになった週刊誌記者の町田里佳。里佳は梶井を取材していくなかで彼女の言葉に翻弄され、私生活までも梶井の存在に蝕まれていく・・・というストーリー。
梶井の一言一言は尾を引くような言葉ばかりで、里佳は惹かれるように彼女の手中にはまっていきます。それが梶井の戦略なのか、ただただ自然と魅了される逸物を持っている人物なのかわからないまま物語は進んでいき、読者である私も「何が理由でそんなに彼女に心を奪われていくのだろう」と思いながら、ついつい彼女に夢中になって読んでいました(笑)。もちろん小説なので、脚色されている部分が大半ではあると思うのですが、獄中から出られない人の言葉にここまで自分の環境や人生を変えられてしまうほど惑わされ、翻弄されるのか・・・とちょっと考えられない展開の連続でした。
理解に苦しむこともたくさんありましたが、梶井の清潔さや丁寧さ、芯があり堂々としながら話す姿勢は、獄中であろうとどこであろうと関係なく、人から羨ましがられるような性分の持ち主だからこそ。聞く側からすれば、彼女から次はどんな言葉が出てくるのだろうという興味を持ち始め、どんどんのめり込んでいくのかもしれないと思いました。
そういう意味では、梶井の人間力というのは尊敬に値するなと思ったり、いやいや、でも殺人罪で逮捕されてるから・・・と首を横に振ったり。要するに、読書中の私も完全に“梶井真奈子に踊らされていた”というわけです(笑)。
今回のオススメ本はこちら!
男たちの財産を奪い、殺害した容疑で逮捕された梶井真奈子。若くも美しくもない彼女がなぜ――。記者の町田里佳は面会を取り付けたが、梶井と会話を重ねるたび、少しずつ価値観が変わっていく。各紙誌絶賛の社会派長編。
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