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TIMELESSPERSON

2026.07.06

私の楽しみ|いつまで自分でせいいっぱい?【佐津川愛美】

自分と向き合ったり向き合えなかったり、ここまで頑張って生きてきた。30歳を過ぎてだいぶ楽にはなったけど、いまだに自分との付き合い方に悩む日もある。なるべく自分に優しくと思い始めた、役者、独身、女、一人が好き、でも人も好きな、俳優 佐津川愛美さんが綴るリアルな日常。【連載「いつまで自分でせいいっぱい?」】

誰にも気づかれないところで

今年は既に連ドラ4本撮影。単発のもの、エッセイ出版に向けた原稿の締切も続いた。1番労力を使う子どもたちとの映画撮影もあり、半年で一年分はもう働いた気がする。

正直、時間には余裕がない。休みがないのは当たり前で、1日に何個も予定がつまっている。ちょっと自分でもひいているレベルにドタバタだ。

やらなければいけないことは山ほどあるし、少しでも効率よく済ませたい。体のためには、休めるなら休みたい。

それなのに、ワークショップ前の準備は気が済むまでたくさんの時間を使う。譲れないのだ。

資料や名簿をつくるだけでなく、初参加の子たちにプレゼントするファイルにロゴステッカーを貼ったり、名札にあだ名を書き込んだり、手を動かす作業がいくつかある。ひとつひとつは小さな作業なのに、気づけば何時間も経っている。

初めてワークショップを開催したときから、この準備の時間が好きだ。お名前シールを貼ったり、鉛筆を削ったり。

入学とか遠足前の親御さんってこんな気持ちなのかなぁと思ったりした。

うちの子が使うなら、どんなものがいいだろう。そんなことを考えながら選んでいく。

細かい物をまとめるファイルは白がいい。白地に黒いfiltyのロゴが映えるもの。子ども達にプレゼントするほうのファイルは、落ち着いた色がいい。予算と相談しつつではあるけれど、妥協はしたくない。
昨日も追加分のファイルを探してお店を回った。透明なものはたくさんある。色付きもたくさんある。でも、真っ白なものが意外と見つからない。

結局、歩き回って三軒目でようやく納得できるものに出会った。

鉛筆もそうだ。黒やみどりはどのお店にもあった。でも、少しやさしい色味のものがいい。子どもたちが手に取ったとき、なんだか少し嬉しくなるようなもの。

ビビットはうちの子には合わない。パステルカラーがいい。そう思いながら探し回りドンピシャなものを見つけたときの喜びといったら!!!

名札にあだ名を書き込むペンすらも私はこだわりがある。柔らかい雰囲気になる、「筆ペンの太字」これが何度も書き直して行き着いた答えだ。中字ではなく太字でなければ、可愛い優しい雰囲気にたどりつかない。

ワークショップに参加する子どもたちは、きっとファイルの色なんて気にしない。ペンの太さも、鉛筆だって、書ければ十分だろう。それでも私は、その時間を惜しいと思わない。むしろ楽しい。

先日、友人と話していたときのこと。彼女は「好きなものしか買わない。見つからなかったら見つかるまで買わない」と言っていた。

欲しいものがなければ、無理に別のものを買わない。妥協して買うくらいなら持たないほうがいい。ずっとそうやって生きてきたのだという。

その言葉が心から羨ましかった。私が彼女をずっと好きな理由が詰まっていた。

自分のことになると、私はすぐ妥協してしまうからだ。少し気に入らなくても、無いよりはマシかと、まぁいいかで買ってしまう。

安かったから。急いでいたから。近くのお店にあったから。そんな理由で選んできたものも少なくない。

彼女の話を聞いた帰り道、ふと気づいた。私は自分のことには妥協するのに、filtyのことになると全然妥協していない。

理想のファイルがなければ探しに行く。納得できなければ別のお店に向かう。少しでも良いものを選びたいと思う。時間も手間もかける。

どうしてだろう。

考えてみて、ひとつ思い当たった。私はfiltyを、自分の子どものように思っているからだ。

もちろん本当の子どもではない。けれど、何もないところから少しずつ育ててきた。

参加してくれた子たちが楽しそうに帰っていく姿を見るたびに嬉しくなる。心配したり、喜んだり。気づけば常に心の中にある存在として時間を一緒に過ごしてきた。

親になったことはない。だから、正直親の気持ちは想像でしかない。けれど、もし自分の子どもが遠足に行くなら、お気に入りの水筒を持たせたいと思うのかもしれない。新しい環境に向かうなら、少しでも気持ちよく過ごせるものを用意したいと思うのかもしれない。本人は気づかないようなところまで気になってしまうのかもしれない。ワークショップの準備をしていると、そんなことを考える。

当日、子どもたちは、落ち着いた色のファイルか、パステルカラーの鉛筆かどうかなんてそんなに気にしないだろう。鉛筆の色だって覚えていないかもしれない。でも、それでいい。本当に渡したいものは、ファイルでも鉛筆でもないからだ。

今日も私は、机に向かってシールを貼る。何回も子ども達の名前を書き直す。そして少しだけ思う。

準備にかけた時間は、そのまま「来てくれてありがとう」と、「楽しんでいってね」という気持ちが込められている。

誰にも気づかれないところに、とても時間をかけてしまう。それが、私の楽しみになっている。

 【楽】撮影が早く終わった日はカフェで仕事!
窓側が好き。これも楽しみのひとつ。
この記事は幻冬舎plusからの転載です。
連載:いつまで自分でせいいっぱい?
佐津川愛美

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