長いキャリアのなかで、すべてのベースが愛だと語る女優・広末涼子さん。映画『あちらにいる鬼』で演じた役についてインタビュー。
経験を引き出して演じた“壮絶な愛”
「正直に言えば、演じていてしんどい瞬間もありましたし、女性としても悩みました。けれど、この世には異性愛を超えた、もっと大きい愛があると思うんです」
広末涼子さんが愛を全身で表現した映画『あちらにいる鬼』。小説家である夫の不貞を長年許し、支え続けた妻を演じ、広末さん自身も葛藤したという。
「私が演じた笙子(しょうこ)は古風で耐え忍ぶ女性のようにも見えるけれど、感情に左右されず自身をコントロールしていく。ある意味男性的な部分もある人だと感じました。佇まいも、気持ちの置き方も、見る人によって100万通りのイメージを作れるような人物なんです。だからこそ監督とイメージの齟齬があってはいけない。自分の過去の経験や恋愛で感じたこと、思ったことを例に出して『このとき私はこう思ったんですが、それに近いものですか』と具体的にディスカッションし、作っていきました」
役に一途になれて、感じた幸せ
自身の愛の経験を総動員し作り上げた役。だからこそ、演じる広末さん自身を強く揺さぶった役だったそう。
「感情があふれてしまい、泣くシーンではないのに、涙が出てしまったこともありました。監督はそれでいい、と言ってくださり、今回も役に一途になれた幸せを感じましたね」
夫の恋人にも同志のような親愛を持つ女性、その深い愛を全身全霊で演じきった広末さん。このGINGERの撮影のためにカメラの前に立つその表情は、慈愛に満ちた神々しいものだった。
「愛の物語は、見る方の年齢や立場によってさまざまな受け取り方があると思います。けれど時代を超えた普遍的なテーマとメッセージを、たくさんの人に受け取ってほしいです」
『あちらにいる鬼』
瀬戸内寂聴と恋愛関係にあった父を持つ作家・井上荒野が、自身の父と瀬戸内寂聴、そこに交わっていく母の3人の関係をモデルに描いた小説の映画化。昨年亡くなった瀬戸内氏も完成を心待ちにしていた作品。
原作/井上荒野
監督/廣木隆一
出演/寺島しのぶ、豊川悦司/広末涼子ほか
配給/ハピネットファントム・スタジオ
全国公開中
広末涼子(ひろすえりょうこ)
1980年7月18日生まれ、高知県出身。近年では映画『コンフィデンスマンJP』シリーズ、『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』などに出演。2023年度前期NHK連続テレビ小説「らんまん」に出演が決定。