ひとり旅は自分をリセットさせてくれるかけがえのない時間。これまでの旅の経験から、考えたことや感じたこと、学んできたことを綴る連載『ひとり旅×松本まりか=THINK CLEARLY』。
10年ほど前、私はイギリスに留学していたことがあります。ロンドンから車で30分くらい南に行った、ウィンブルドンにある語学学校に通っていました。9ヵ月の滞在中に3軒の家でホームステイをしました。3つ目の家は人気のホームステイ先で、とてもかわいらしいお家でした。築100年を超える、いかにもヨーロッパという感じのクラシックな家。内装もインテリアもガーリーで、壁紙はピンクのストライプ。女の子の憧れを凝縮したようなお部屋でした。ベッドは大きく腰高で、ヒラヒラのベッドスカートまでついていた。私は実家で家族全員でのお布団生活だったので、夢のようなお部屋に胸が躍りました。
その家のホストファミリーは60代のご夫婦で、イギリスの伝統的な暮らしを受け継いでおられました。リビングには映画に出てきそうな長いダイニングテーブル。夜は必ず、ご夫妻と私たち留学生3人全員でそのテーブルを囲み、一緒に食事をします。きれいにテーブルセッティングされたお皿にフィッシュアンドチップス。手を替え品を替え、毎晩ポテト料理(笑)。普段の夕飯はお母さんが用意してくれたのですが、月曜の夜だけはお父さんがインドカレーをふるまってくれました。それが忘れられない味で、私がカレーに目覚めたのはあのお父さんのバターチキンカレーがきっかけだったのかもしれません。
語学学校では毎日宿題がたっぷり出て、家と学校の往復で私は全く遊びませんでした。事務所にお願いをして1年お休みをいただいて留学しているのですから無駄にはできないと、ロンドンに出ることもほとんどなく、ひたすら真面目に勉強していました。「この留学で私は変わるんだ!」といさんで行きました。英語のレベルは上がり、貴重な経験をしました。ただ、想像していたような劇的な変化はすぐにはありませんでした。年月が経つにつれ、この経験が生きていると感じています。帰国後に気づいたのは、私はもっと遊ぶべきだったということです。伝統的な語学学校だったので正しい英語は学べましたが、チャッティな英語にふれる機会はほとんどありませんでした。「真面目だけが正義」と思っていたけれど、遊びのなかでこそ、ユーモアや未知なものにも出会えるのだと思います。
これまでは遊ぶことを自分に許していなかった。
そもそも日本にいるときから私はあまり遊んできませんでした。はみ出す気質を持っていることを自覚しているので、枠におさまらなければとずっと思っていました。皆さんきちんとされていて、私もそうならなければとガチガチになって、枠に押し込めようとしていたのです。
遊びが大事と頭で理解していても、仕事が思うようにできない時代は、遊べる身分ではないと思っていましたし、友達と食事に行っても心から楽しむことができませんでした。遊びたいと心から思えるようになったのは、実はごく最近のことです。ここ数年たくさんお仕事をさせていただき、「もう遊んでもいいよね?」「笑っても許されるよね?」という気持ちになり、先日2年ぶりくらいにお友達とお茶をしに行ったら、めちゃくちゃ楽しい!
最近は共演をきっかけに女の子の友達が増え、お茶をしたり、メール交換をしたり、ときには深い話をしたり。今はまた忙しくなってしまい、できない日々が続いていますが、休みの日に遊ぶ友達がいる。これは私にとって、すごいギフトでした。
Marika’s Memories/私の青春
松本まりか(まつもとまりか)
女優。ドラマ『ホリデイラブ』の井筒里奈役で一躍注目を集める。『竜の道 二つの顔の復讐者』『妖怪シェアハウス』『先生を消す方程式。』『教場Ⅱ』などのドラマに出演。配信中のParaviオリジナルドラマ『東京、愛だの、恋だの』、放送中の『それでも愛を誓いますか?』それぞれの主演を務める。12月16日よりAmazonプライムビデオで配信スタートの「雨に叫べば」でも主演を務める。
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