大人の余裕という言葉がまさにぴったり似合う俳優・吉田栄作さんにインタビュー。スケールの大きな人生を、しっかり手綱を握って乗りこなすその背中に、自分なりの人生を謳歌する方法を学んでみませんか。
俳優や歌手である前に、一人の人間でいたい
「映画やドラマで活躍するベテラン俳優」「白Tにジーンズが似合うイケメン」「俳優でありアーティストでもある」。これらの表現はどれも、吉田栄作という人物の一部を示してはいるものの、全部を伝えてはくれない。
「人間って、そう簡単なものではない」と語る吉田さん。19歳だった1988年にデビュー後、瞬く間にスターダムに駆け上がりながらも人気絶頂の26歳で活動休止、単身アメリカに渡った過去がある。
「デビュー前に志した夢が、22歳のころには全部叶って、これからどうしようかという漠然とした思いがありました。そのころ、自分の名前が一人歩きしているようにも感じていて。吉田栄作といえばこう、というイメージを作ることは、駆け出しの芸能人としてはたしかに必要なのですが、本当の自分とのギャップが大きくなってきて、そろそろ帳尻合わせが必要だと思ったんです」
それまで手に入れたものを手放して、向かった先はアメリカ・ロサンゼルス。その理由は「休んだあと、ハリウッドで勉強もできるから」。ただ休養するだけでなく、その先を真摯に見据えていたのだ。休んで、勉強して、新しい挑戦もして、3年後に帰国する。
「アメリカでの3年間で強く思ったのは、自分は俳優や歌手である前に、まず人間でいたいということ。芸能界ではそこが狂ってしまいやすい。同じ過ちを繰り返さないと決心し、今に至るまで大切に守り続けています」
まさに人生の“断捨離”。一度ゼロになることで、自分が自分であることを取り戻すことができたという。帰国後は俳優として、等身大の自分で生きてきた。映画、ドラマ、舞台と幅広く実績を重ねて今日に至る。
判断に迷ったら、難しいほうを選ぶ
「でも45歳になったころから、また自分のなかに悶々としたものが生まれてきたんです。それまでの芸能人生とほぼ重なっている平成という時代が終わるときに、自分も節目を作りたいなと。この先しっかりと地に足つけてやっていくためには、それが必要だと感じました」
そうして2018年末、デビューから30年にわたって所属していた事務所から独立した。
「僕の人生にはたびたび『このままでいいのだろうか』と思うときが訪れるんです。そのたびに自分に負荷をかけるようなことをする癖(へき)があるのかもしれませんね(笑)」
渡米、そして独立。常に自ら人生の節目を決め、その後の生き方をコントロールしてきた吉田さん。その決断の基準を聞いてみると「迷ったら難しいほうを選ぶ」との答え。
「例えばプールで、10往復泳ごうと決めて、途中で今8往復か9往復かわからなくなったとする。僕はそういうとき、9ではなく8だと思うことにしています。結果もし11往復だったら得じゃないですか。楽なほうを選ぶと自分がダメになる気がする。何より、難しいほうが楽しい。ずっとそういう感覚で生きてきました」
難しいほうを選ぶ――その一見ストイックに見える思考を、あくまで自然に持ち続けてきたことが、入れ替わりの激しい芸能界で、吉田さんが長く評価され続けている理由なのだろう。私たちも人生の選択を前にして迷ったとき、「どちらが難しいか?」と考えてみると、道が拓けるかもしれない。
ライブツアーに寄せて――30年の歩みを共有したい
歌手デビュー30周年を記念し、2019年にシングル「Runners High」とアルバム『We Only Live Once』をリリース。締めくくりとして2020年に予定されていたライブツアーは新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期となってしまったが、その間に急きょ、シングル「One Fine Day」をリリースするなど精力的に活動してきた。そしてこの6月、改めてライブツアーが開催されることに。
「帰国したころから僕は、職業は何かと聞かれたら迷わず俳優と答えています。俳優は仕事。一方で、音楽は好きだからずっとやり続けようという位置づけです。応援してくださっているファンの皆さんやバンドのメンバーと、好きなときに、好きな場所で、好きなだけやる。もし俳優の仕事をやめることがあっても、音楽をやめることはないと思います」
ライブツアーは当初、アルバム『We Only Live Once』の曲を中心に歌う予定だったが、延期を経て気持ちが変わってきたと言う。
「もちろんアルバムから何曲かは歌いますが、古い曲もたくさん歌うつもりです。30年の歩みをお客様としっかり確かめ合って、共有できるような、そんな素敵な時間になればいいなと思っています」
また、7月には舞台『hedge 1-2-3』への出演も控えている。金融業界を舞台にした15人の群像劇で、エリート中のエリート金融マンを演じる。
「僕が理想としているのは、観ている人が芝居と思わない芝居です。それに、僕を選んでくれた人たちに後悔はしてほしくないという思いもある。今回もいつも通り、全力で稽古に臨んでいます。もちろん楽しむことを忘れずに。
『hedge 1-2-3』は難解なテーマではありますが、演出が巧みです。お客様を巻き込む仕掛けもあって、完成度の高いエンターテインメントになっているので、ぜひ臆せず観にきていただきたいですね」
吉田栄作歌手デビュー30周年コンサートツアー2021
『~We Only Live Once~』
●名古屋公演
日時/2021年6月5日(土) 17:30開場 18:00開演
会場/ボトムライン
お問い合わせ/サンデーフォークプロモーション
052-320-9100(受付時間:12:00~16:00)
●大阪公演
日時/2021年6月6日(日) 16:30開場 17:00開演
会場/バナナホール
お問い合わせ/夢番地
06-6341-3525(受付時間:平日12:00〜18:00)
●東京公演
日時/2021年6月25日(金) 18:30開場 19:00開演
会場/渋谷プレジャープレジャー
お問い合わせ/スネークミュージック
03-3260-8535(受付時間:平日11:00〜18:00)
『hedge 1-2-3』
日程/2021年7月8日(木)~19日(月)
会場/あうるすぽっと(豊島区東池袋 4-5-2 ライズアリーナビル 2F)
作・演出/詩森ろば
https://serialnumber.jp/hedge123.html
吉田栄作(よしだえいさく)
1969年生まれ、神奈川県出身。俳優、歌手。1988年の映画『ガラスの中の少女』でデビュー。TVドラマ「もう誰も愛さない」などヒット作に数多く出演し、トレンディドラマ俳優として一世を風靡。また音楽活動では、1990年「心の旅」、1991年「もしも君じゃなきゃ」でNHK紅白歌合戦に出場。デュエットソング「今を抱きしめて」では第36回日本レコード大賞で優秀賞を受賞。2003年「武蔵」(NHK大河ドラマ)、「ブラックジャックによろしく」(TBS)の演技が評価されギャラクシー賞の奨励賞を受賞。映画、舞台にも多数出演し、優れた演技で高い評価を得ている。