女芸人 紺野ぶるまさんによる女観察エッセイ「奥歯に女が詰まってる」。GINGER世代のぶるまさんが、独自の視点で世の女たちの生き様を観察します。
第33回 ヨガの後にタバコを吸う女
女友達がヨガについて語っている。
「ヨガの目的は呼吸だから。口から自分の中にあるストレスとか悩みごとを吐き出して、鼻からキレイな呼吸を取り入れるの」
そう語る口でそのままタバコを吸った。
教室で一時間ほどチャクラを開き、全身に新しい空気を行き渡らせたあとにニコチンをぶちこんでいる。
「急にやめると逆にストレスになって体に悪いから、1ミリにしてる」
そして、いつもの倍の本数を消費している。
彼女はいつだって気持ちが行ったり来たりしていた。
ご飯を食べに行ったときも、8個目のヤンニョムチキンを食べながら、
「痩せたいわあ」
とため息をついていたこともある。
「急にダイエットすると体に悪いから、一回食べたいもん全部食べてからにする」
そう言って店を出た後の屋台でハットグのチーズがのびるのを楽しんでいた。
「職場にすごい嫌な先輩がいて、本当にむかつくんだよね」
散々悪口を聞いた翌日には、SNSでその先輩と酒を酌み交わし肩を組んだ写真をあげている。
「おしゃれな部屋に住みたい」
Francfrancで雑貨を買い漁った次の日には、牛乳パックで作った踏み台に乗り裸電球を変えていた。
夜中に映画『そんな彼ならやめちゃえば?』を観た次の朝には、「もう不毛な恋愛はやめる」と部屋を掃除し、ランニングに行き、彼のLINE IDを消したが、夜になり三杯目のビールを飲む頃にはインスタから彼にDMをしていた。
結果「無視された」と泣きながらまち針ほどの細いタバコを吸い、「もう一生一人で生きていく」と嘆いていた一年後に、彼女は別の人と結婚し、一児の母になった。
飲酒も喫煙もパタリとやめたが、ヨガとインテリア熱はまだまだ健在だ。
そして「ごはんも作ってくれるし、本当に優しくていい人」と旦那をベタ褒めした次の日には「束縛激しくて無理、絶対離婚する」と役所に離婚届をもらいに走っている。
いつ会っても「別に普通。何も変わらないよ」という安定した生活をしている女には確かに憧れる。私もなりたいし、彼女にもそんな毎日を送ってほしい。
しかし悲しいかな、一緒にいて楽しいのは、行ったり来たりしてるときのめちゃくちゃな彼女なのである。
彼女の幸せを願いつつ、また慌てふためく様子を見たいと、いたずらに思ってしまうのは悪いことなのだろうか。
最後に、
“行ったり来たりしてる女”とかけまして
“牛乳パック“と解きます。
その心はどちらも
“何度でも再生する“でしょう。
今日も女たちに幸せが訪れますように。
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紺野ぶるまさんの初エッセイ集が、5月26日に発売予定。高校中退、引きこもり生活から、お笑いの世界へ――。自身のコンプレックス、仕事哲学、恋愛・結婚、母との関係などを綴った、笑えて、そしてほんのりと心が温まる一冊。