女芸人 紺野ぶるまさんによる女観察エッセイ「奥歯に女が詰まってる」。GINGER世代のぶるまさんが、独自の視点で、世の女たちの生き様を観察します。
第29回 なくすのがうまい女
色気のある女はなくし物がうまい。
その技を一夜にして見せつけられたことがある。
初対面の男女が入り混じった飲み会。登場した瞬間から「肉食系」の匂いが漂う女がいた。
決して派手ではない。どちらかというと大人しそうで黒髮ロングのストレートをかきあげ、黒を基調とした服装でまとめている。
しかし、気になるのはその目線である。
不自然なほど女子の方を見ないのだ。
トイレで遭遇したとて「お前と話しに来たわけじゃない」というオーラを発し、ほぼ無視してくるその振る舞いは、肉を通り越して、もはや血の匂いがする。
私は「バドミントンが好きな人が集まる飲み会」というから来たのに、誰もラケットの話なんてしていない。
バラバラに座っていたはずなのに彼女は気づくと男の間に入り込み、漢字の「嬲(なぶ・る、と読む)」状態。両側どちらの男性とも良い感じになっている。意味こそ知らないが、まさになぶりまくっていた。
そして帰り際には、怪奇現象が起こったのである。
仮に彼女をAさんとしましょう。
「それではお開きにしましょう」と幹事が言うと、Aさんが席にいないんです。
ヤダな~ヤダな~と思い隣を見ると、二人の男性の後ろに器用にしがみついているのです。
昔懐かしき騎馬戦を思い出させるフォーメーション。
しかし、その姿に他の男子も女子もドン引き。
ガタン!!!!
という音とともにAさんを連れて来たであろう女性が立ち上がり、
「良い加減にしてよ!!!」
そう叱ると、Aさんは細い声で「ない、私のバックルがない・・・」
ブーツのバックルが紛失したと探し出したのです。
「お気に入りだったのに~」とだんだんと泣き出す始末。
「俺たち、一緒に探すよ」
男性が名乗りをあげたので先にみんな帰ることになりましたが、私は気付いていました。
そのブーツに最初からバックルなんてついていなかったのです。
実はバツ4だという彼女のバックルは、決まって飲み会の最後になくなるらしい。
さらに次の日には「何も覚えていない」と、記憶をなくしているんだとか。
4回の結婚がその実績を物語っている、男たちは傍若無人な彼女にメロメロだった。
貞操観念が低い女に憧れるわけではないが、なくすのがうまい女はモテると思う。
記憶を無くす、終電をなくす、鍵を失くす、どれも適度に色気が漂っている。
しばらく彼女の立ち居振る舞いを思い出しながら、私までまた会いたくなっていたくらいだ。
「結婚詐欺ってこういう女がするんだろうな」
彼女に惚れた男まで亡くなっていないことを祈りつつ(ブラックジョーク)、現在バツなになのか気になる次第である。
最後に、
「記憶」とかけまして
「バドミントン」と解きます。
その心はどちらも
「思い切り飛ばしたいこともある」でしょう。
今日も女たちに幸せが訪れますように。