E-girlsメンバーの山口乃々華さんが、瑞々しい感性で綴る連載エッセイ「ののペディア」。今、心に留まっているキーワードを、50音順にひもといていきます。
第40回「り」:理想
何かに憧れたり、ときには嫉妬したりしながら、“理想”はわたしのなかで少しずつ作られる。
“憧れ”は、自分にないものや自分とは違うもの、知らなかったもの、綺麗だと思ったもの、カッコいい、かわいいと思ったもの・・・そんなものへの素直なリスペクトの気持ちだと、わたしは思っている。“憧れ”が見せてくれる世界は、わたしの視野を広げ、今までの生活をぐんと楽しくしてくれる。
“嫉妬”は憧れに似ているけれど、両方の漢字に「ねたむ」の意味がある。あまりいい印象の言葉ではない。わたしも今までいくらか嫉妬をしてきて、その対象は、特別な雰囲気を醸し出している人や場所、などなど。いいな、素敵だな、と惹かれつつ、どこかにどろっとした気持ちが潜んでいる感じ。
でも、そんな“嫉妬”から教わることも多かった。他の何かを羨望しつつも、わたしが生きているこの空間の中にだって、魅力があるじゃないか。と考えるきっかけになった。集中して自分自身を見つめる機会になった。そのおかげで、少しずつ前向きになれたりもした。だから、嫉妬も案外、悪い気持ちではないと思っている。
今までどんな気持ちに出合っても、こんなふうに処理して、学んできた。しかし、よく周りの大人が言ってくれていた「スポンジのようになんでも吸収できる時期」は終わりかけているように、最近思う。
理想の幅が小さくなったというか、わたしはどこまででもいけるのではないか、と思わせるようなぶっ飛び感がなくなって、まぁきっと無理だろうな。と現実を悟るようになってきた。
以前は、簡単に他人に影響されて、いつかわたしもあの国に住み、こんな仲間と、こんなふうに時間を過ごしてみたい!などと夢を見ては、ワクワクとときめいていたけれど、今ではそんなふうに気持ちが盛り上がることがなくなってしまった。
なんでも目新しかった世界から、本当に好きになれるものや、大事にできるものを探し出せた結果だとも思えるし、単に現実のなかで、自分の未来に安心したいだけなのでは?と疑ってしまうときもある。何かがもう、決定的に違ってきているのを感じている。
今は、現実的に叶えられるもののなかから未来を想像し、どうすれば叶うのかを考え、きちんと準備をして、ということばかりを思い描いているし、実際に行動してもいる。
大人になるって、そういうことだろうから、当たり前なのかもしれないけれど、なんだかかつてのワクワクやときめきが薄れてしまって、少しさみしい。
今も、もちろんすごく楽しい。きっと、もっともっと楽しいことを見つけられるとも思っている。
でもあの頃は、未来を想像しただけで今を頑張れてしまうような熱量が自分のなかにあった。そのエネルギー源だった“理想”は、もうどこかに行ってしまったようなのだ。とはいえ、それは本当に叶えたいほどの理想だったのかも、もはやわからない。それくらい、ふわふわと泡のように膨らみ上がっていた、勢いはあるけど簡単に消えてしまう気持ちだったのだろう。
取り戻そうとしても、きっともう取り戻せないあの気持ちは、もう取り戻さなくてもいい。そういうことなのかもしれない。
きっと、“理想”に対してのわたしの理解が、変わり始めているのだ。
これまでは、絶対に届かないと思って、そのぶんどこまでも自由に想像できるものだったけれど、今は、わたしが本当に手に取りたくて、たしかに経験し、叶えたい、と思えるものになったのだ。
理想なんて「いつか、いつか」とずっと遠くにあってほしい気もするけれど、その「いつか」に向けて、もう現実的な準備を始めなければならないタイミングがきているのかもしれない。
今の理想に、今の熱量で向かう日々を、これからは楽しみたいと思う。
【ののペディア/理想】
思い描けば、きっと手が届くもの。