周囲をふわりと包み、柔らかなムードで満たしてしまう優香さんの纏(まと)う空気感。その奥には、生来のバランス感覚と、それに悩む過去があったといいます。今だからこそ振り返る、優香さんが経験してきた転機とは?
優香「空気を読むことが得意な子供でした」
「実は、私、すごく怖がりの人生だったんです。小学生で転校してすぐ、漢字ドリルで満点を取ったときのこと。ボス的な女の子が『あれはカンニング』と触れ回ったことが今でも強烈に残っていて、以後、空気を読むことばかりを気にするようになって。恋愛も同じ。嫌われるのが怖くて、素の自分をほとんど出せずにいました。フラれても、理由を聞くことすらできなかった。あるときは、直球だから、少しゆるいくらいでもいいといわれ、そうかといって力を緩めると届かない。適度な距離がつかめなかったんです。親友も恋人も近づきすぎると離れていく気がして、距離を測ることで自分をごまかしていたのかもしれません」(優香さん)
そんな女性が芸能界に入り、活躍し続けているという事実。優香さん自身、自分を常に客観視する癖があって、未だに不思議な感覚に陥ることもあるのだそう。
「当時、お仕事はいただいたものをこなしていくことで精一杯、楽しむ余裕はありませんでした。やりきった!なんて日は1日もなく、毎夜反省会。体は疲れているのに頭は冴え冴えとして眠れず、悶々とした日々を送っていました」(優香さん)
そんなときに訪れた転機。それが34歳で挑んだ、初舞台だった。
「初日の夜のことはよく覚えています。頭と体をめいっぱい使うことで心身ともに疲れ果ててしまったんですね。帰るなりベッドに倒れこみ、泥のように眠りました」(優香さん)
公演中はその繰り返し。朝起きて太陽を浴び、ごはんを食べる。舞台で体を動かして、喜怒哀楽を表現し、お風呂に入ってよく眠る。そんな日々を送るうち、何かが解放される感覚があったのだとか。
「知らないうちに付いていた、人に対する我慢グセが、解き放たれていくのを感じました。舞台も、コメディ作品は演者とお客様の熱気が循環して出来上がるもの。思いもよらない興奮に包まれることもあります。それを肌でダイレクトに感じているのは自分自身だから、『良かったよ』という賞賛の言葉も素直に受け入れることができた。人間だらけのあの濃密な空間で動き回った経験が、怖がりだった私を変えてくれた気がします」(優香さん)
優香が気持ちの変化で得た自分の身を委ねる勇気
そう変化した優香さんに、旦那さんとの出会いが待っていた。
「この人となら、どこででも生きていけると感じました。あと、愛情という次元を超えた信頼感も。長く仕事をしていると自分のことは自分で守るのが当然で、守られる感覚など忘れてしまう。その複雑な抵抗感をほどいてくれたのも旦那さんだったんですよね」(優香さん)
人生の転機を経て、曲がり角の先に見えてきたもの。それは他人に身を委ねる勇気。そして肩の力を抜いた素顔の自分――。
「あの舞台で、私は人に喜んでもらうことが大好きだという大切なことを思い出しました。怖がりな自分も空気を読む自分も、そこから派生したものなら、受け入れてもいいかなって思ったんです」(優香さん)
自分を受け入れる勇気を持ち、よりいっそう輝きを放つ優香さん。これからの活躍も楽しみです!
優香(ゆうか)
1980年6月27日生まれ、東京都出身。テレビ、舞台、CM、雑誌などでマルチに活躍する。舞台歴は、三谷幸喜作・演出による『酒と涙とジキルとハイド』(2014年)、『不信〜彼女が嘘をつく理由』(2017年)。今年の春に『酒と涙とジキルとハイド』が再演された。