“正義”の反対は、本当に“悪”なのか――。Prime Originalドラマシリーズ『犯罪者』で共演した斎藤工さんと水上恒司さんに話を聞くと、浮かび上がったのは松永大司監督ならではの“引き算の演出”と、予測不能な現場で育まれた特別な関係性だった。既成概念を手放しながら作品と向き合った日々、そして世界配信作品だからこそ実現した挑戦について語ってもらった。
“引き算の演出”が生み出したリアリティ

この社会には人の数だけ正義があり、同時に人の数だけ事情や背景がある。誰かにとっての正義が、別の誰かにとっては加害になることもあるし、逆に“悪”だと断じられた行動の裏側に、切実な理由が隠れていることもある――。社会の歪みや人間の本質を鋭く描きながらも、エンターテインメントとして観る者を引き込むPrime Original ドラマシリーズ『犯罪者』がいよいよ配信スタート。その世界観を支えているのは、監督の独自の視点と演出にほかならない。撮影を振り返るうえで、ふたりが繰り返し口にしたのが、松永大司監督の存在だった。
「松永さんは、ドキュメンタリー作品が好きだという一方で、『グーニーズ』のようなエンタメ作品も目指したいという。その両極にあるものが共存している作家性は、信頼でしかなかったですね。撮影前には、エチュードを取り入れたリハーサルも重ねたんですが、3人のシーンだったり、個人のシーンだったり、そこで生み出されるものを見て、『これが松永印なんだ』と思いました。多くの俳優さんが、この組で新しい自分に出会っているんだろうなと、自分も含めて感じました」(斎藤さん)
一方、水上さんも作品づくりの根底にある松永監督の人間性に大きな魅力を感じていたという。
「どんな作品でも、人間として面白い着眼点がないと成立しないと思うんです。人生を真剣に生きていないと、人のそういう部分に興味は持てないですし、それを切り取ろうとも思わない。面白いものを作る人、面白い仕事をする人って、やっぱり人として魅力的なんですよね。僕も本当に、このタイミングで松永組と出会えて、いろんな勇気をいただきました」(水上さん)

松永監督の演出を語るうえで欠かせないのが、「引き算」というキーワード。
「ここにおける“引き算”は、お芝居をしようとしないというか、そこまで役と自分が同化していくことなんだと思います。これまでの感覚に頼りながら現場に臨むというよりは、オンとオフで言ったら“オフの自分”を持ち込む感覚。決め込んだ芝居が通用しない世界なんだと、リハーサルを重ねるたびに感じていました」(斎藤さん)
その感覚は、自身が普段ディレクターとして俳優を見る立場だからこそ腑に落ちたという。
「オーディションや衣装合わせで見せる、その人本来の魅力のほうが、時として作品のなかより魅力的だったりするんですよね。人間って普段のほうが魅力的なことが多い。その状態をどう本番に持ち込むか。それが松永組の演出なんだろうなと思いました」(斎藤さん)
水上さんは、その削ぎ落としの演出が成立すること自体の難しさに言及する。
「引き算をできる現場って、よほど体力と勇気と実力がないと成立しないと思うんです。今の日本の作品は、お客さんが映像と音声だけで全部の情報を受け取れるような、説明的な表現が多いと思うんです。でも松永さんは、その真逆をやっている。だからすごく挑戦的なことだと思います」(水上さん)
斎藤さんによると、その考え方は実際の演出にも反映されていた。
「松永さんが司るのは、その人の所作だったり声のトーンだったり。『それが普段のあなただよね』という部分なんです。また、実際にセリフを引いていくこともかなりありました。普通なら編集で選べるように、一応撮っておくものもあるんですが、松永さんは『これはなくていい』と判断する。その作品や現場の持つ引力を信じているんですよね」(斎藤さん)
また、本作ならではの不確かさも印象的だったという。
「僕たちは、役に対する哲学を持って現場に入るんですが、この作品は予想されたくないという意志を感じるんですよね。だから現場も、どう転がっていくのか分からない。普段なら拠り所にするような確定事項がどんどん排除されていく感覚がありました。そんな僕自身の歪みだったり揺らぎだったり、そういうものを作品のなかに引き入れてくれている感覚が面白かったですね」(斎藤さん)
水上さんもまた、松永監督の演出力の高さを実感したひとり。
「松永さんは役者によってアプローチを変えられる人。この人にはこういう言い方がいい、この人には別の角度から、というふうに。だから演出力が高いなと思いました」(水上さん)
監督との対話が大きな支えになったという。
「僕自身がやっている作業は基本的には変わらないんです。ただ、それを言葉で共有できるかどうかという意味で、松永さんの存在は大きかったですね。僕の言いたいことがちゃんと伝わっているのかと思うこともあるんですが、松永さんはかなり高い精度で汲み取ってくださる。その安心感はありました。松永さんの演出だったからこそ、普段以上に踏み込めた感覚はありましたね」(水上さん)


初共演となるおふたり。作品のなかで強い絆を育んでいく関係性さながらに、撮影を通して互いへの印象も深まっていったという。
「日本映画の黄金期の俳優さんのような深さというか、味わいがあるんですよね。デビュー当時から、いい意味で現代っぽくない。僕は映画が好きでこの世界に入った人間なんですけど、映画って奥行きだと思うんです。映っているものの奥にあるものまで感じさせる。その奥行きが、水上さんにはすごくあるなと思っていました。
一緒にリハーサルのなかでもがくような時間があったんですが、自分と向き合うだけじゃなくて、相手がどう反応するのか、その三角形の関係性のなかで生まれるものがあった。作品を一緒に作ったという以上の蓄積があった気がします」(斎藤さん)
「松永組じゃなかったら、斎藤さん・(高橋)一生さんに対して今持っている印象も違っていたと思います。この作品だからこそ、自分も含めて、それぞれの俳優から引き出されたものがあったんじゃないかと感じています。特に斎藤さんは根が張っているというか、核がものすごく低いところにある。僕が目指している在り方のひとつでもあるので、すごく面白かったですね」(水上さん)
高橋一生さんを含めた3人は、作品のなかだけでなく、現場でも自然と関係性を築いていった。
「僕は鑓水を演じるうえで、高橋さんが演じる相馬と水上さんが演じる修司からたくさんヒントをもらっていました。誰かに重たいものが集中したとき、鑓水はどうその空気をほぐすのか。逆に修司が場の空気を晴らしてくれることもあって。共同体として過ごしていた感覚がありました」(斎藤さん)
「3人の関係を簡単に言えば、“愛”になると思うんです。でも本人たちは愛とか好きとか、そんな言葉で説明していないような関係性。『別にあいつのこと好きじゃないし』なんて言いながら、一緒にいると楽しい、居心地がいい。そういう関係ってあるじゃないですか。
撮影期間は4ヵ月あったんですけど、本当に3人の関係性と似たものを、一生さん、斎藤さん、僕自身でも作れていた気がします。よく『役にリンクしていますね』と言われたりしますけど、そういう言葉だけで片付けてほしくないくらい、意味のある現場だったと思います。松永さんも、おふたりも、スタッフの皆さんも含めて、戦っている姿に勇気をもらいました。『犯罪者』ならではの特別な時間でした」(水上さん)

世界配信作品ならではの挑戦について尋ねると、斎藤さんは本作そのものが持つ希少性に言及した。
「そもそも原作者の太田(愛)さんが“民放では描けないもの”を含めて書かれた、ある種の挑戦状のような作品。それを今の時代のストリーミング作品だからこそ描けたんだと思います。
これから先、世の中がどうなっていくのか分からないじゃないですか。情報統制のようなものが強くなる可能性だってある。その意味では、この作品は今しか作れなかったのかもしれない。もともと“映像化させまい”という思いで書かれたような作品が、このタイミングで形になって、太田さんがGOを出して、このメンバーが集まった。それも何かの巡り合わせだったんじゃないかなと思います。
スタッフもキャストも同じ方向を向いて走っていた現場だったことは確かです。『新感覚』という枕言葉はよく使われますけど、今回は立て付けそのものが新しい。今まで踏み込めなかったところに、一歩も二歩も踏み込んだプロジェクトだったと思います」(斎藤さん)
水上さんは「世界配信」という枠組みよりも、一つの作品との出会いとして本作を捉えていた。
「『今、日本で世界と戦える組は少ない』と話に上がることもあるけれど、松永組を経験してみて、そんなことはないなと思いました。そもそも世界と戦う必要があるのかどうかも分かりませんけど(笑)、面白い作品を作る人やチームの可能性って、どこからでも生まれると思うんです。若い人たちからかもしれないし、突然出てくるかもしれない。今回、自分はそういう可能性を秘めた作品の一つに出会えたんだなという感覚があります。本当にありがたい出会いでしたね」(水上さん)
正義と悪、真実と虚構。その境界線を問いかける『犯罪者』。だが本作が俳優たちにもたらしたのは、それだけではない。松永大司監督との出会い、互いに刺激し合った共演者たちとの時間、そして既成概念を手放しながら表現と向き合った数ヵ月。そのすべてが重なり合い、『犯罪者』という作品を特別なものにしているのだろう。
【7月17日(金)より配信】Prime Original ドラマシリーズ『犯罪者』

キャスト/高橋一生、斎藤工、水上恒司 ほか
原作/太田 愛『犯罪者』(角川文庫/KADOKAWA)
監督/松永大司
制作/PROTX
斎藤工(さいとうたくみ)
1981年8月22日生まれ。東京都出身。俳優/フィルムメイカー。主な出演作に『シン・ウルトラマン』、『マジカル・シークレット・ツアー』、Netflix『新幹線大爆破』、『This is I』『ドラマにNetflix「極悪女王」、「誘拐の日」など。また、キングダム 魂の決戦』(7月17日公開)、『存在のすべてを』(2027年2月5日公開)の公開が控えている。初長編監督作『blank13』は国内外の映画祭で8冠を獲得。企画・プロデューサーを務めるドキュメンタリー映画『大きな家』は、第34回日本批評家大賞ドキュメンタリー賞を受賞。永尾柚乃初監督作品『LITA』でもプロデュースを務める。また、全国の被災地等での移動映画館「Cinéma Bird」主宰、「Mini Theater Park」、白黒写真家など、活動は多岐にわたる。
Instagram @takumisaitoh_official
水上恒司(みずかみこうし)
1999年5月12日生まれ、福岡県出身。2018年、ドラマ「中学聖日記」で俳優デビュー。映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(23)で第47回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。近年の出演作に、映画『九龍ジェネリックロマンス』(25/池田千尋監督)、『火喰鳥を、喰う』(25/本木克英監督)、『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』(25/萩原健太郎監督)、『TOKYO BURST -犯罪都市-』(26/内田英治監督)、ドラマ「シナントロープ」(25/山岸聖太)などがある。また、映画『本当にあった話(の話)』(26/武井佑吏監督)の公開を控えている。
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