「旅」というものは、出発前も、旅の道中も、旅から戻ったあとも、さらにずっと時間が経ってからも、私たちの心にいろいろな想いを授けてくれる。それは想い出だけでなく、自分のなかに築かれる新しい考え方や好奇心。
今、大人の女性たちの“行きたい旅先”に必ず名前が挙がる北欧。デザイン大国、キャッシュレス先進国、ソーシャルウェルフェアの充実・・・そんなポジティブなイメージの強いスウェーデン。そこで出会えるものは、旅の楽しさを超えた、たくさんのギフトでした。GINGER取材班がレポートします。
スウェーデン旅が教えてくれること
イケア(IKEA)や、家電メーカー エレクトロラックス(Electrolux)のスタイリッシュな製品は日本でもおなじみですが、スウェーデンはデザイン性と機能性を兼ね備えたモノヅクリで世界を牽引する国 。
街並みも、ブティックのインテリアも、スーパーマーケットに並ぶ食品パッケージも、何もかもがおしゃれで女子ゴコロをくすぐります。
でも旅するなかで、一歩踏み込んで眺めてみると、そこにはデザインコンシャスにとどまらない、骨太なスピリットがみえてきました。
旅が教えてくれること1:食べ物を無駄にしない
ストックホルムの街中にある、カフェレストラン「Sop köket(ソップ・シューケット)」。大きな窓から柔らかい光が差し込むランチタイムは、美味しいブッフェを目当てにローカルの人々が集まり満席状態が続きます。
その日のランチメニューは、当日の朝に決まります。
というのも、当日の朝にならないとどんな材料が揃うのかがわからないから。
なぜ?
―― 実はこちらのレストランは、フードロス(食品廃棄)される食材を独自のルートで仕入れて“レスキュー”しているから。
今日のランチも50%がレスキューした食材で作られているのだそう!
店名の「Sop köket」は“ゴミのキッチン”という意味。
オーナーのフィリップさんは、このレストランをポップアップショップからスタート。SNSの拡散力を使って注目を浴びることで、有名オーガニックスーパーマーケットとパートナーシップを結び、店舗を構えるまでに。
「店のテーマは『食材をレスキューする』こと。オープンして5年でおよそ18トンのフードロス食材をレスキューできました。それでも冷蔵庫も冷凍庫ももっと大きいものがないと、食材をレスキューしきれないのだけど・・・。
ケータリングも手掛けていて、その際は余った料理を各自が持ち帰れるようにドギーバッグもつけているんですよ。それから、ホームレスに食事提供もしていて、今までに8500食ほど寄付することができました」
ケータリングは電動自転車でデリバリーしたり、アフガニスタンの難民を雇用したりと、フィリップさんのサステナブルな取り組みは多岐にわたります。
世界的な問題となっているフードロスに、真摯に取り組むレストランスタッフたち。
日本でいうところの食品衛生局的な機関からは、彼らの“期限切れ食品”の見極め力を評価されているそう。
「残念ですが、NGなものはもちろん捨てるしかない。まだ使えるのかどうか、食品の臭いや色などできちんとジャッジする」ことが大事で、それがレストランへの信用へとつながっています。
お客さんのなかには、 「Sop köket」の背景を知らずして訪れる人も多いそう。つまり、それだけ美味しい料理を提供できているということ。
食材もレスキューできて、美味しい料理で幸せを実感できる場所。ストックホルムを訪れたら、ぜひこのレストランでサステナ体験をしてほしい!
Sop köket
https://sopkoket.se/
旅が教えてくれること2:いいものを大切に長く着続ける
日本発のライフウェアブランド「UNIQLO」のスウェーデン初ショップがストックホルムにオープンしたのは、今から1年半ほど前。
“クオリティのいいものを長く着る”というスウェーデン人の考え方と、ブランドの持つモノヅクリの理念がしっくりとマッチして、ユニクロのアイテムはあっという間にこの街の人々に浸透していった模様。
ストックホルムの目抜き通り(ハムン通り)に面し、王立公園クングストラッドゴーダンの隣に位置するユニクロ クングストラッドゴーダン店は、スウェーデンのモダニズム建築を代表する建築家 スヴェン・マルケリウスが設計したビルの中にあります。
柱や壁、床材の一部など、建物のもともとのディテールを活かしたリノベーション。古いものと新しいものが美しいハーモニーを生み出しています。
こちらの階段も、もともと設置させていたものを活かしたエリア。
踊り場には、スウェーデンオリンピック・パラリンピック選手団のメンバーがLifeWearコレクションを着こなしたポスターのディスプレイが。
左から、アレックス・ケシディス選手(レスリング/オリンピック代表)、リナ・ワッツ選手(競泳)、トビアス・ジョンソン選手(陸上・走り幅跳び)、リネア・ステンシルス選手(カヌー/オリンピック代表)という面々がビジュアルに登場しています。
この時季、スウェーデンのオリンピック選手たちが、事前キャンプや練習時にこのウェアを着て過ごす様子も報道されていました。
取材班が訪れた日のエントランス付近のディスプレイにも、LifeWearコレクションが並んでいました。
青地にイエローゴールドのスカンディナヴィア十字が描かれている国旗からもわかるように、この2色はスウェーデンを象徴するカラー。アスリートたちをサポートするウェアも、この2色がキーカラーになっています。
国土の80%が森というこの国が持つアイデンティティを意識して、店内のインテリアには木材も効果的に使用されています。白い床もクリーンなイメージで素敵。
別のフロアでは床が木材で天井が白という逆パターンもあったり、各フロアで異なるインテリアに。ショップ内を巡るお客さんに楽しんでもらうための仕掛けのひとつなのだそう。
店長のニコリーナさんは、ストックホルム生まれ。学生時代に旅先でユニクロに出会い、「この服はストックホルムで広めるべきと確信するほど、親和性が高いと感じたわ」と教えてくれました。
日本でもユニクロのリサイクルへの取り組みは知られていますが、ストックホルムでも独自のアクションを展開しています。
キャンプアイテムを扱う企業と組んでスキーウェアのサブスクリプション(貸出し事業)を実施したり、スチームアイロンのメーカーとのコラボレーションも。
たとえば、Tシャツにアイロンをかける vs スチームをあてるのとでは、後者のほうが10倍も衣服を長持ちさせるのだとか。
スチームには殺菌効果もあるので、特にデニムのように頻繁に洗濯をすると風合いを損なうようなアイテムには、スチーマーの使用が向いているそう。大切な服を長く着るために、洗濯の代わりにスチーマーを活用することも賢い選択なのです。
ショップの最上階にあるキッズのためのコーナー。休憩スペースが設けられ、折り紙で作られたデコレーションや、日本人作家の絵本(もちろんスウェーデン語に翻訳されたもの)などが用意されていて、日本文化を知ってもらうきっかけ作りも。
キッズフロアの窓から外を見下ろすと、そこは王立公園。冬はスケートリンクが設けられ、春は桜が咲いてとても華やかな景観になるそう。
そんな市民の憩いの場の近くにあり、彼らのライフスタイルに寄り添う存在になっているユニクロは、この国でますますファンを増やしていきそうです。
UNIQLO Kungsträdgården
Hamngatan 27, Stockholm, Sweden
旅が教えてくれること3:できるだけ、ものを捨てない
ストックホルムから車で約1時間。ここは世界初の100%セカンドハンドショッピングモール「Re Tuna(リトゥーナ)」。セカンドハンド、つまり中古アイテムだけを扱うショップが並ぶモールです。
ファッションアイテムを扱うショップから、インテリア、グリーン、電化製品、スポーツ用品、キッズアイテム、書店・・・とバラエティに富んだラインナップ。
モールのすぐ目の前にリサイクルセンターがあり、そのなかから“まだ使えそうなもの”がモールのバックヤードに流れてきます。
さらに、“もう不要だけれど、まだ使えそうなもの“ “捨てるにはもったいないもの” “誰かにとっては必要なかもしれないもの”が、この地域に住む人だけでなく、ストックホルムからも運ばれてくるのです。
そんな不要品たちを、モールは無料で引き取ります。
持ち込まれたアイテムは、きちんと手入れされ、修理され、相応の値段がつけられて、各ショップに並びます。
きれいにディスプレイされた服たちは、捨てられそうになったアイテムには見えません。まるで、大切に扱われてきたヴィンテージアイテムのよう。
各ショップはモールに賃料を支払い、その賃料でモールの経営が成り立っています。店に並ぶアイテムは無料で引き取ったものなので、仕入れ値はゼロ(もちろん修理などの手間はありますが)。
捨てるに忍びないものたちが再生されて、どこかでまた誰かの役に立っている。そんなハッピーなサイクルが出来上がっています。
こちらはグリーンと雑貨のショップEcoflor。オーナーのマリアさんのセンスとアイデアが活かされた素敵な空間。
ハンガーをアレンジしてオブジェを作ったり、レザーを切り貼りしてフラワーベースにアレンジしたり。バックヤードの不要品の山から見つけた材料にアイデアをプラスして、売れるものを生み出しています。
廊下スペースに本棚を並べた書店。電子マネーでの支払いを求める貼り紙があるだけで、ただ今スタッフは不在。信用商売ですね(笑)。
成長の早いキッズたちに必要なアイテムも、ここで安価に手に入れて、不要になったらまたバックヤードに届ければいいわけです。
スポーツ用品も大充実。お国柄、スキーなどのウィンタースポーツものがたくさん。
せっかくの機会なのでバックヤードも覗かせていただきました。
こちらは不要な服を回収するコーナー。車で乗りつけたローカルの皆さんが、ポンと袋を投げ入れていきます。
ゴミとして捨てることなく、わざわざここまで運んでくるという意識の高さが素晴らしい。
こちらは家具類のバックヤード。北欧らしい可愛いチェアもありました。確かに捨てるのはもったいない!
持ち込まれるアイテムで一番多いのは、やはり服なのだそう。
ショップに置くには至らない、売れそうにないアイテムは、バックヤードのこのスペースで月に1回、フリーショップを開催。欲しい人は無料でピックアップ可能。最後の最後まで、服をゴミにしない試みです。
バックヤードを案内してくれたエヴァさんは、さきほどの書店のオーナーさん。ほかにもモール内で、リサイクルについての知識を学べるスクールを運営しています。
「とにかく『できるだけ捨てない』ということが大切ね。このモールではダンボールの貸し出しもしているのよ。引っ越しとかダンボールが必要なときは限られているから、新しものを買わずに、レンタルしたほうが安いしエコでしょう」
2015年のオープン以来、年々利用者が増えているという「Re Tuna」。週末はローカルの人々、夏休みはツーリストで賑わうそう。
訪れた人は、きっと宝物探しのような気分でショップ巡りをしているのかも。モノを大切に使う、そしてモノの寿命を延ばす。モノとの付き合い方を深く考えさせられる貴重な時間でした。
Re Tuna
https://www.retuna.se/hem/
食べる、着る、買い物をする――。そんな旅の楽しみのなかで、人生において大切なこととは?を教えてくれるスウェーデンの旅。
私たちが日々の生活で取り組みたいこと、考えていくべきこと、挑戦すべきこと。自分なりのその答えを、その方法を、あなたも旅をとおして見つけてみませんか?
取材班の旅レポートは続きます。