満ち足りた会話の時間を「読む」――小林聡美さんの新刊が発売

映画『かもめ食堂』ほか多数の主演作で知られる女優・小林聡美さん。その穏やかで自然体な人柄がにじみ出る、温かな筆致のエッセイも好評で、これまで多数の著書が出版されています。そしてこの秋、いよいよ新刊が発売に。詳しくお話を伺いました。

 撮影/勝吉祐介(PEACE MONKEY)
スタイリング/藤谷のりこ
ヘア&メイク/北 一騎

3人ならではの会話の広がり

これまで多数のエッセイを世に送り出してきた小林聡美さんの新しい試みは、対談ならぬ「鼎談(=ていだん)」。毎月1回、小林さんご自身とふたりのゲスト、合わせて3人でひとつのテーマについて語り合うという雑誌連載を、1冊にまとめたのがこの本です。ふたりではなくあえて3人。そんな形式を選んだことには、何か理由があるのでしょうか。

「以前、対談形式の本を出させていただいたことはあったので、何となく今回は3人かなと。実際にやってみると、思っていた以上に、一対一でお話しするのとはまた違う面白さがありました。会話を言葉のキャッチボールだとすると、自分があっちへ投げたボールが、また自分に返ってくることもあれば、他の人のほうへ行ったり。いろいろな反射のパターンがあって、会話が広がっていくので、ふたりだと気詰まりがちなことも3人いることで分散できるというか(笑)。それに、視界にふたりいるというのは、目にも楽しかったです」

そうして繰り広げられた全18回のトークのテーマはさまざま。まず目次のページを開くと、そこに名を連ねるゲストのバラエティの豊かさに驚かされます。

「私自身があまり誰とでも上手に話を進められるタイプではないので、ゲストには優しそうな方をお招きしました(笑)。最初に登場していただいた井上陽水さんは、以前からお世話になっている大先輩。どうやって進めていったらよいのかわからないなかで、頼もしい先輩のお力を借りることができたのはありがたかったです。そこに、担当の編集さんから川上未映子さんをご紹介いただいて。ほかではなかなか見ることのできない組み合わせだと思います。
それ以降も毎回、会ってお話をしてみたいなという方のお名前を挙げていきながら、その組み合わせも考えていったのですが、その過程がいつも大変で。ぎりぎりまで決まらないこともありました」

悩みぬいて選ばれたゲストのなかには、小林さんが普段から親しく接している人もいれば、初めて会う人も少なくなかったのだとか。

「何度もお目にかかったことのある方でも、普段交わす世間話とは一歩進んだところのお話が聞けて新鮮でした。そして初めてお目にかかる方とは、その出会いだけでも貴重なものだったと思います。どうしても一度お会いしてみたかった江戸家小猫さんにご登場いただいた回もあるのですが、それはそれは楽しい時間でした」

ちなみにその小猫さんが登場する回で、小林さんは「ものまねが得意」とおっしゃっていましたが……。

「以前、孔雀の前で鳴きまねをしたら、雄が私に求愛のダンスで迫ってきたことがあって(笑)。それが密かな自慢なんです。本当は小猫さんに聞いていただきたかったんですけど、プロの方に対して失礼かなと遠慮してしまいました。今度お会いするときにはぜひ小猫さんに、孔雀の鳴きまねをしていただいて、共演したいですね」

あえて言葉にすることで、見えてくるものがある

ものまねが得意ということはつまり、相手をよく観察し、それに合わせる力に長けているということ。人と話すときも、「基本的に、私のほうからぐいぐい行かない。聞き手にまわるほうが多いかも」という小林さんの人柄によってか、どんなゲストもすんなりとその場になじんで、会話が弾んでいる様子がこの本からは窺えます。その見事さに、何かホスト役としてこっそり駆使している会話術があるのでは……と問いかけてみるものの、「テクニックとかそういうことを考える余裕もないまま、18回を駆け抜けたという感じでした」とのこと。
では駆け抜けて、できあがった本をいざ手にし、どう感じられたのでしょうか?

「こう改まって3人それぞれの考えを語り合って、それが文章になったものを読んでみると、普段は何となく自分の頭のなかにあったものが言葉になっていて、ああ私ってこんなふうに考えてるんだと、ハッとさせられた瞬間が何度かありました。言葉にすることによって、自分の考えが整理されたような感覚。普通、そうやって1,2時間かけて自分の考えを話し合う機会ってあまりありませんよね。ご飯を食べるときなんかは、他愛もない楽しく盛り上がったりするので……それはそれでもちろんいいのですが、たまにはこうやって腰を据えて会話をすることも、有意義なことだと思いました」

硬派なテーマでも、脱力系のテーマでも、じっくりとした会話を通してこそ見えてくる新鮮な景色がある。その会話の時間に読者も立ち合った気分になれるのが、この本の一番の魅力かもしれません。

「とてもキャッチーな表紙に仕上がっているので、この赤い色に惹かれてということでも、並んでいるゲストのお名前が気になってということでもいいです。たまたま手に取ってみたら、あの人がこんなことを言うんだとか、こんな面白い人がいるんだとか、読むことで聞ける。この本を通して、そんな素敵な体験をしていただけたらなと思っています」

「とてもキャッチーな表紙に仕上がっているので、この赤い色に惹かれてということでも、並んでいるゲストのお名前が気になってということでもいいです。たまたま手に取ってみたら、あの人がこんなことを言うんだとか、こんな面白い人がいるんだとか、読むことで聞ける。この本を通して、そんな素敵な体験をしていただけたらなと思っています」

『ていだん』小林聡美/中央公論新社
◆井上陽水、川上未映子「10年後、私たちは……」
◆小泉武夫、飯島奈美「発酵の不思議」
◆長塚圭史、西加奈子「堂々と生きる」
◆加瀬亮、前田敦子「俳優という職業に向き合う」
◆南伸坊、江戸家小猫「なぜ、まねるのか?」
◆板谷由夏、平岩紙「太い女」
◆役所広司、光石研「九州男児と語らう」
◆石田ゆり子、中谷百里「動物の命とどうかかわる?」
and more…

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小林聡美 profile
こばやしさとみ●1965年5月24日生まれ、東京都出身。’82年に映画『転校生』で初主演。以後、映画『かもめ食堂』『めがね』『プール』をはじめ、ドラマや舞台など幅広く活躍している。エッセイストとしても知られ、『読まされ図書室』や『散歩』など著書多数。今後は11月20日よりオンエア・配信されるWOWOW×Hulu共同制作ドラマ「コートダジュールNo゜10」、11月9日からシアターコクーンにて上演の舞台「24番地の桜の園」に出演予定。

[小林さん着用アイテム]
ニット¥40,000/ミヤオ(TEL: 03・6804・3494)

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