建物のメンテナンスのため長期休館していた東京・丸の内の三菱一号館美術館が11月23日から再オープンしています。再開最初の展覧会は「再開館記念『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」。三菱一号館美術館のコレクションの中でも核をなす19世紀末フランスを代表する画家・ロートレックの作品と、現代アーティスト・ソフィ・カルの作品がどんな化学反応を起こしているのか、必見です!
4年越しにソフィ・カルの作品展示が実現!
ソフィ・カルは、2020年の開館10周年記念展として企画された「1894 Visions ルドン、ロートレック」の際に来日する予定でした。しかし、世界的な新型コロナウイルス感染症の流行により、来日を見送らざるをえず、この度、4年越しに展示が実現しました。
三菱一号館美術館は、三菱が1894年に建設した「三菱一号館」(ジョサイア・コンドル設計)を復元したもので、コレクションは建物と同時代の19世紀末西洋美術が中心となっており、これまで現代アーティストの展示は行なっておらず、ソフィ・カルの展示が初となります。
本展でソフィ・カルは、写真・テキスト・映像のほか、額装された写真の前面にテキストが刺繍された布が垂らされてその布をめくると写真が現れるという参加型の作品や、初公開となる花束をモチーフにした作品など多様な作品を展示しています。今回、彼女は三菱一号館美術館に招致されたことを光栄に感じつつも、展覧会のオープンを自分自身が生きて迎えられるかが少し心配になったと、以前に語っています。今まで展示されていた作品は没後のアーティストばかりだったことを考えるとそれも頷けます。
三菱一号館美術館の空間で、今回のようにソフィ・カルの多様な創作活動を一度に見られるというのは、本美術館の新たな取り組みとしてもとても貴重な機会と言えます。
フランス国立図書館所蔵の版画作品11点を加えた136点
三菱一号館美術館は、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックの作品を多数所有していますが、今回は、フランス国立図書館から借用した版画作品11点を加えた136点が並びます。
展覧会タイトルの「不在」と、そして相反する「存在」というテーマにも意識を向けて、ロートレックの作品を多面的に紹介しています。
ポスター画家としての印象が強いロートレックですが、ポスターの評価のみ先行してフランスの国公立美術館に受け入れられなかった美術史におけるロートレックの「不在」、ポスターに小道具などが描かれてることで人々の記憶に「存在」を刻み込んだ役者や歌手たち、華やかな多色刷りのポスターが注目されがちだけど実は多く残されている色彩が「不在」の単色刷りのポスター。ほかにも色彩の変化のみで表現して形が「不在」の作品や、テキストが「不在」の画集など。
何度もロートレックの作品を観たことがあるという人にも気づきのある展示になっているはずです。
展示室は3階から始まりまずはロートレックの作品、2階にソフィ・カル作品と続くのですが、ロートレックの最後の展示室に飾られているのがこちらの作品。
1895年、ロートレックはボルドーに行くために乗船した船で出会った美しい女性に一目惚れをし、ボルドーで下船することを拒んでリスボンまで行ってしまったのですが、その際に女性を後ろから描いたものです。この海に向かっている女性を描いたロートレックのリトグラフと相対する位置には、トルコの内陸で生まれ育った老若男女が初めて海を見た瞬間を捉えたソフィ・カルの映像作品が展開されています。
どちらも海を見つめる作品で、緩やかにロートレックとソフィ・カルが繋がっていくのを感じながら足を進めてもらえると、今回の展覧会により一層没入できると思いますので、美術館で確かめてみてください。
もう一つの見どころ!秘蔵のルドン作品
今回の展覧会の見どころをもう一つご案内。
ソフィ・カルの《グラン・ブーケ》のパートで、三菱一号館美術館所蔵の、19世紀末フランスの画家オディロン・ルドンによるパステル画の代表作《グラン・ブーケ(大きな花束)》が展示されています。縦2.5×横1.6メートルの巨大な作品は、限られた期間しか公開されず、それ以外は通常展示室内の壁の裏側で密かに保管されているものなので、この機会にぜひじっくりと楽しんで。
※以下、展覧会から代表的なロートレックの作品をいくつかご紹介
作品を鑑賞するのに最適な空間でゆったりと
休館をしての設備メンテナンスでは、壁面の色がどんな作品を展示しても映えるような乳白色に変更されています。それに合わせて絨毯の色も変更。照明もLEDで作品をより観やすくし、空調も新調されています。作品を鑑賞するのにより最適な空間になっていますので、ぜひゆったりと時間をとって展覧会を楽しむことをオススメします。
また、以前はミュージアムショップだったスペースは小展示室となり、三菱一号館美術館の所蔵作品や現在預かっている作品を中心に、学芸員の興味・関心に基づく企画展示を行っていくとのこと。初回は、『坂本繁二郎とフランス』を開催中です。企画展を鑑賞した人だけが観られる展示となっているので、あわせてチェックしてみてくださいね。