当たって砕けて見えてきた本当の夢とは?ハート鷲掴みの歌声にも感動の注目作

カントリー音楽の本場、アメリカのナッシュビルでの成功を夢見る、スコットランドで暮らすシングルマザー、ローズ。彼女をメイドとして雇うスザンナは、その才能を見込んで協力、道は開けてゆくかに見えたが・・・。夢を追い求めるあまり、時に愛する母親や幼い子供たちを傷つけてしまう。夢か家族か、若さと才能を兼ね備え、遂につかんだチャンスを前に、葛藤する彼女がたどり着いた答えとは?


実在の人物をモデルに生まれたというこの作品について、今回は映画ライター渥美志保さんに見どころをたっぷりと語っていただきました!(編集部)  

ハート鷲掴みの歌声で、夢に体当りする「ダメ女」

アメリカの「カントリーミュージック」と聞くと、なんとなーく「演歌」っぽいイメージがありますが、あのテイラー・スウィフトも、そもそもはカントリーのシンガーです。彼女が音楽での成功を収めるために11歳の時に訪れたのが、「カントリーの聖地」と呼ばれるテネシー州のナッシュビル。多くの音楽レーベルが軒を連ねるこの町には、全米中からミュージシャンを夢見る人たちが集まってきます。

『ワイルドローズ』の主人公ローズもまた、この街を夢見るシンガーの一人。「自分は本当はアメリカの黒人に生まれるべきだった」と語る彼女は、ナッシュビルから遠く離れたイギリスのお隣、スコットランドの小さな町に住んでいます。

映画は彼女がミュージシャンになるための奮闘を描いてゆきます。ローズの歌唱シーンはこの映画の最大の見せ場ですが、心を鷲掴みにされるほど素晴らしいもの。ちょっぴりハスキーで力強く、「ワイルド」の名にふさわしい歌声です。

でも同時に私生活もかなりワイルド、いわゆる「ダメ女」なのです。行動はいちいち考え無しだし、経験からぜんぜん学ばないし、自分のことに夢中になると、それ以外のことすぐ忘れるし。2人の子持ちのシングルマザーなのですが、そもそも親に向いてないタイプ(って言っちゃあおしまいだけど)で、子供を上手く愛することができません。彼女は軽犯罪で少しの間刑務所にいたのですが、子供のほうも、その間面倒を見てくれたおばあちゃんの方が好きなんです。まあ当たり前だけど。

ここまで書くと「なんていう母親!」と誰もが思うでしょうが、私はこういうときはいつも「でも、じゃあ父親は何やってるの?」と一呼吸。そして思うのです。結婚し、子供がいる女性は、夢を追う資格はないの? ——映画を観ると、そういうことをすごく考えさせられます。

たとえば。ローズが家政婦として働く裕福な家の奥さんが、彼女の才能を確信し、ナッシュビルにいく資金を作る手伝いをしてくれる。そして、実はシングルマザーであることを隠しているローズにこういいます。「あなたは今が最高の時よ。結婚し子供を持ったら、こんなことは絶対にできない」。
ローズの母親もまた、彼女を育てることで諦めてきたことがあることが示されます。

さてそんななんやかやを乗り越えて、ローズの夢は叶うのか。映画がいいのは、夢の「その先」が描かれていること。夢を追い求めてたどり着いた場所が、自分の想像とは違っていたというのは実はよくあることだし、それによって初めて「自分の本当に欲しい物」が見えてくることもあるものです。たどり着いたのが「最初に夢見ていた場所」とは違っても、そこで清々しく生きられるのは、思う存分当たって砕けてやりきったからこそ。ダメ女だったからこそ、なのかもしれません。

『ワイルド・ローズ』
【監督】トム・ハーパー
【出演】ジェシー・バックリー 、ジュリー・ウォルターズ、ソフィー・オコネドーほか
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー公開中
©Three Chords Production Ltd/The British Film Institute 2018
https://cinerack.jp/wildrose/

渥美志保
ナビゲーター
渥美志保
TVドラマ脚本家を経てライターへ。雑誌やWebのほか、企業広報誌などにも多く寄稿。J-WAVE「KEY COFFE METROPOLITAN CAFE」にてシネマスターとして映画を紹介。TOKYO FM「FMシネマ」では構成とキャスティングを担当。現在は映画を中心にカルチャー全般のインタビュー、ライティングを手がけている。
このナビゲーターの記事を見る