肝心なのはエモさ。字の書き順に正しいも間違いもない?

大人になってから、もっときれいに字を書けたら・・・と思ったことがある人も多いはず。ここは、日ごろから書道を教えている書画家・夏生嵐彩の連載『文字のクリニック』。 先生のもとに訪れた相談者さんの「字」の悩みを、丁寧な指導で解決へと導きます。読み解くことで、きっと皆さんの字も美しくなっていくはずです。(編集部)  

書き順に意味はあるの?

こんにちは。院長の夏生嵐彩です。当院ではクセ字や悪筆など、文字の困った病気をお持ちの患者さんに適切な治療と処方箋をお渡ししています。文字のことで悩んだときはいつでも駆けこんでくださいね。

「先生、書き順って意味あるんですか?」

「まぁ、意味がないと言ったら嘘になるけれど、そこまで縛られる必要もないってのが正直なとこさ」

「じゃあ何のためにあるんですか?」

「1つは教える側がバラバラだと教わる側が混乱するから統一したってのと、もう1つは字をきれいに整えやすくするためかな」

「じゃあ、僕らが字なんて汚くていいや~って思ってて、混乱しないならどんな書き順だってかまわないってこと?」

「まあそうなるね。でも君たちは字が上手に書きたいから私の元にいるんでしょう?」

「はい、その通りです」

「だから、まあ基本の書き順は知っておくに越したことはないけれど、字がきれいに整うなら、ちょっぴし間違った書き順でもかまわないのだよ」

「そうなんだ! ちょっぴしってどの程度?」

「いい質問だね。そのちょっぴし具合が大切で文字の流れと筆運びが自然気持ちいい必要がある」

ナチュラルにエモい!ってこと?」

「そう、ナチュラルにエモいのが大切! そして、ナチュラルにエモい筆順が教育用に採用されたんじゃないかなって思ってる。あと、字の成り立ち的に自然に書ける書き順ってのもある。どういうことか説明しよう」

形の成り立ちと手の特徴で書き順ができているもの


小学校の時「右」と「左」の書き順が違うことに疑問を持ったことはありませんか?

横画と左払いは同じ形なのに不思議ですよね? 私は小さいとき誰に聞いても答えてくれず途方にくれていました。

当時、習字の先生から「【右】は横画が長い方がきれいで、【左】は払いが長い方がきれいなんだ。それがこの書き順だと自然にできるからだと思う」という説明を聞いて「その書き順ならきれいな字が実現しやすいってことならまあいいか〜」と、とりあえずは納得しました。

実際この説明には間違いはありません。
ただ、成り立ちを考えるともう少し納得感が増します。

これらの字は左手と右手が祭事の道具を持っている形をしています。

この形から今の形に変化したということは、よく見てみて下さい。
左は指の部分が横線、腕の部分がはらいなのに対し、右は指の部分がはらい、腕の部分が横線なのです。

腕の方が長いので、左右それぞれ長くするべきところが変わります。そして試しに書いてみれば分かることですが、2画目に書く方が長く書きやすい。だから左右の書き順が変わったのですね。

このように、漢字そのものの成り立ちによって形が決まり、その形に整えやすくするために不思議な書き順になっているものがあります。 

歴史的書き順から教育漢字に統一されたもの 


 『書き順指導の手びき』が昭和33年に出されてから教育上の漢字の筆順は一度も変わっていません。ただ、この手びきの中でも複数の書き順について「ここに取り上げなかった筆順についても、これを誤りとするものでもなく、また否定しようとするものでもない」と書かれています。

そもそも楷書は漢字のなかでも一番新しい文字なのですが、もともと書かれていた草書や行書と形が違うので、それらの書き順と異なる筆順になることもあれば、楷書が形成される段階で複数の筆順が誕生するのも自然なことです。

「じゃあ、別に適当な書き順でもいいじゃないか」という立場をとりたくなる気持ちもわかりますが、きれいに書くことを目指すのであれば漢字は右手で縦書きに書くことが前提なので、基本は左→右、上→下へ流れます。

その流れが、より自然に美しく書けるように慣例的に書き順が整ってきました。
『書き順指導の手びき』とは異なる歴史的書き順の方がきれいに、そして気持ちよく書けることもある場合もたくさんあります。本書の通りの方が楽しいと感じる書き順もまたしかり。

その一部をご紹介しましょう。

このように、昔の書き順でも、最近決められた書き順でもどちらでもいいものがたくさんあり、それぞれ少しずつ形は変わりますがどっちが自分的にカッコよく書けるかとか、どっちが気持ちよく書けるかとかで皆さんが自分で採用したらいいと思います。

ただ、他人が読むことを前提に書くのであれば、例えば下のような書き順で書くのは非効率な上、形も整わないし、規則性がなさすぎる書き順というのはオススメしません。

自分用なら何でもいいんですけれど、なかなか使い分けるのって難しいですよね。ちなみに私はかなり使い分けていて、自分のメモは「日」を丸書いてチョンって書くときすらあります(笑)。

ちゃんと使い分けられるのであれば「自分にとって楽な書き順」「他人が読むためにきれいに書ける書き順」とを分けてみましょう。
そして「きれいに書ける書き順」は自然な字の流れを無視しない程度に、より気持ちよくカッコよく書けるほうを採用していきましょう。

【本日の処方箋】

・文字の成り立ちによって長さなどの理想が決まっている字は、そのように書きやすい書き順がある。

・小学校で習う書き順しか正解がないわけではなく、よりカッコよく自然に気持ちよく書ける書き順を見つけてみたら楽しい。

・あまりにも不自然な書き順は直した方がきれいな字につながる。

それではお大事に。  

文・イラスト/夏生嵐彩  

夏生嵐彩/書画家
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夏生嵐彩/書画家
東京学芸大学 書道科卒業。書道と水墨画の教室『墨サロン』主宰。 全日国際書法会 理事/ 日本芸術書院 評議委員。大正ロマンやアールデコに影響を受け、レトロな美人画を得意とする一方、伝統技術と舞台演出を駆使した水墨画ライブペイントや、アートを取り入れた児童への教育活動を行い、文化と教育のために一石を投じている。
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