優等生の真の正体とは?根深い人権問題を問う注目のサスペンスドラマ

優等生の黒人高校生の真の正体をめぐり、周囲の人々の思惑が交錯するサスペンスフルなヒューマンドラマ『ルース・エドガー』。教師との対立をきっかけに広がる彼への疑惑がやがて人間の本質、人権問題に関するアメリカの現実へと迫っていきます。今回は映画ライター渥美志保さんに、みどころをたっぷり語っていただきました!(編集部)

完璧な優等生、その裏にある本当の顔

裕福でリベラルな白人家庭の養子で、文武両道で好感度も抜群。教師からの信頼も厚く、「オバマの再来」と呼ばれる優等生、黒人の高校生ルース。ところが黒人の女性教師ウィルソンは、そんなルースを懐疑的な目で見ています。理由は、彼が「暴力革命の有効性」を主張するかのようなレポートを書いたから。

ウィルソンがそこに引っかかったのは、ルースの出自に関係があります。養子として米国に迎えられる以前の彼は、アフリカ紛争地帯の少年兵でした。文字を覚えるより先に銃を撃ち、人を殺していたわけです。

映画はふたつの軸で回ってゆきます。
ひとつは、ウィルソンとルースの対立。この部分の描き方と、特にルースを演じるケルヴィン・ハリソンJr.の演技が本当に細やかで絶妙で、ルースが本当は優等生なのか裏の顔を持つ怪物なのか確信が持てず、サスペンスはいやおうなく盛り上がってゆきます。

同時にウィルソン側の狙いも見えてきます。当たり前のように差別されてきた彼女は、「だから黒人は」と言われないよう、自分の生活態度を律して生きてきた人。彼女にとってルースは、黒人の地位向上のための(そして自分の評価を上げるための)「苦難を乗り越えまっとうに生きる黒人青年」という看板。彼に「だから黒人は」と言われるような行動をされると、利用価値がなくなるから困るのです。ルースはそれが分かっているから、すごく嫌なんですね。そのレッテルにがんじがらめにされ、自分の好きなように生きることができないからです。

ところが、ここにもうひとつの軸が絡んできて、ルースを苦しめます。それが彼の母親エイミーのなかで膨らんでゆく、ルースへの疑念です。リベラルで「社会的に正しいことをしたい」と常に思っている彼女は、それゆえルースのような養子をとったわけですが、ウィルソンにほんの些細なことを聞かされただけで、自慢の息子が得体のしれない存在に見えてきてしまう。自分には偏見などないと思っていたのに、彼の出自が頭にちらつき、信じ切ることができません。頭のいいルースは、そのことにも気づいてしまう。

「だから黒人は」と言われれば、求める自由は手に入らない。でも「完璧な優等生」を演じつづけることも苦痛。ルースはそういう葛藤でがんじがらめになってゆきます。

そして事態は思わぬ方向へ。映画はこのあたりを慎重に、すべてを見せることなく描いているのですが、裏側で起こっているであろうことを想像すると、人間の本質に底寒さを覚えます。登場人物たちにある感情や意思には、明確な悪意もありますが、人によっては無邪気な、十分理解できるものも。でもそれらが明確な意図によって仕組まれ、結果としてできあがった場を覆う「黒いもの」を、なんと言葉にすればいいのかわかりません。

そして多くの観客が「もしルースがアメリカ生まれの白人青年だったら、ラストシーンは違ったはず」と、ついそう思ってしまうだろうことこそ、この映画が問うている社会の複雑さにも思えます。

『ルース・エドガー』
【監督・製作・共同脚本】ジュリアス・オナー
【出演】ナオミ・ワッツ 、オクタヴィア・スペンサー 、ケルヴィン・ハリソン・Jr.ほか
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中
© 2018 DFG PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.
http://luce-edgar.com/

渥美志保
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渥美志保
TVドラマ脚本家を経てライターへ。雑誌やWebのほか、企業広報誌などにも多く寄稿。J-WAVE「KEY COFFE METROPOLITAN CAFE」にてシネマスターとして映画を紹介。TOKYO FM「FMシネマ」では構成とキャスティングを担当。現在は映画を中心にカルチャー全般のインタビュー、ライティングを手がけている。
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