上手いも下手も本当はないんじゃないか?【E-girls山口乃々華連載 ののペディア/モノローグ】

E-girlsメンバーの山口乃々華さんが、瑞々しい感性で綴る連載エッセイ「ののペディア」。今、心に留まっているキーワードを、50音順にひもといていきます。

第35回「も」:モノローグ

太陽の光が肌に染み込んでくる。熱風に煽られるたび、汗が額からゆっくりと首に向かい、背中まで伝う。日焼け止めはもう、流れ落ちてしまっただろう。暑い。それでも夏が好きだ。

クーラーの効いた店内へ入る。涼しい。汗がひいていく。今日は体のメンテナンスをしに、マッサージを受けに来た。


「最近は、なにを食べていますか?」

わたしの体がそんなに浮腫んでいるのだろうか。前日の食事が、うまく思い出せない。最近の“おいしかった”記憶を辿る。

「今日は、フォーを作って食べました。昨日は、ほうれん草と玉子を炒めたものを食べて、マヨネーズで炒めるんです。あ、トマトも入れて」

そんなことを話しているうちに、突然ものすごく眠たくなってしまった。頭をぐわんぐわんと揺さぶられたような感覚。

どうにも抗えそうにない。この頃よく、猛烈な眠気に襲われる。梅雨が明けて空気がカラカラに乾いたからだろうか。

話を終わらせるために「とにかくあったかいものも食べるようにしています」と答えたはずだけど、声になっていただろうか。変なことも言ってしまったかもしれない。諦めて眠りに身を任せた。


蝉の鳴き声が、わたしを懐かしい場所に連れて行く。

わたしはいつのまにか学校にいて、制服を着ていた。お祭り騒ぎにワクワクしていた。華やかに装飾された校庭には、何組かに分けられた生徒たちがざわざわと集まっていた。特に見覚えのある人たちではなかった。運動会だろうか、でも制服を着ているから、学園祭? 文化祭? 経験したことないお祭り行事だった。

ちらりと隣を見たら、ひとりだけ懐かしい顔があった。

ドキッと心臓が高鳴る。「久しぶり」という気持ちを込めて、笑顔を向けてみた。同じようにニッコリと返してくれた。疎遠になった友人と、2年ぶりの再会。なにか話したいな、と話題を探していたら、用事を思い出した。

階段に向かって走る。走れば走るほど、景色が変わっていく。もうあそこには戻れないと、どこかでわかっている。後悔の念が押し寄せてくる。まだまだあそこにいたかったのに、なにを焦っているのだろう。それでも、とにかく目的の場所に向かって走った。


ため込んでいた体の中のゴミたちをぐんぐん押し流して、マッサージは終わった。家に帰るなり、本棚にしまってあったノートを広げる。

なにか絵を描きたくて仕方ない衝動に駆られた。わたしは絵が上手くない。立体的で、動き出すのでは?と思わされるリアルな生き物を描ける人が羨ましい。

それでも描きたいから、頭を空っぽにしてペンを握ってみたら、今度こそ思うように描ける気がした。今日のわたしはなんとなく、上手、下手という自分の中の決めつけから遠く離れた場所にいる気がした。

ペンを握る。わたしの指先は、クルクルクルクル紙の上を泳ぐ。変でもいいや、形にならなくてもいい。とにかく考えないで、クルクルクルクル。絵描き気分にさせてくれるその作業は、思っていた以上にたのしかった。わたしの絵には曲線が多い。

「誰もが芸術家」

最近読んだ小説に出てきたそんな言葉を頼りに、自分を盛り上げて、角がない線をたくさん書いた。

そうだ、そうだ、上手いも下手も本当はないんじゃないか? 決めつけているから、違いを探して、比べてしまうんだ。

そんなことを思った。

決めつけがない世界はたのしい。

心の自由が許されている世界は、居心地がいい。

絵を描きながら、さっき見た夢について考えていた。夢の中でわたしは用事があると思って走り出したけれど、その用事がなんだったのか思い出せなかった。本当に用事なんてあったのだろうか。あると決めつけていただけだったのではないだろうか。


わたしは自分の心に呼びかける。

もしもし。
本当は、どんなときが楽しいですか。

もしもし。
本当は、なにをしているときに胸が高なりますか。

自分を見つけたり、見失ったり。いや、自分なんて形は、実はなくてもよかったりして。もしかしたら全部、わたしの決めつけかもしれないから。

ただ心に問いかけ続けることだけが、思い込みから逃れる唯一の方法。


暑い季節に翻弄されながら、夢も現実も境目がよくわからなくなる気分を楽しんでいる。


【ののペディア/モノローグ】
心とつながる方法


山口乃々華/E-girls
ナビゲーター
山口乃々華/E-girls
3月8日生まれ、埼玉県出身。2011年にLDH主催の「VOCAL BATTLE AUDITION 3」を経て、2012年発売の「Follow Me」よりE-girlsとしてデビュー。2014年から女優業もスタートし、映画『イタズラなKiss THE MOVIE』シリーズ、ドラマ・映画「HiGH & LOW」シリーズやHulu版「崖っぷちホテル!」今年の夏には「私がモテてどうすんだ」にヒロイン役で出演する等、活動の幅を広げている。 2020年9月19日〜26日にアベマLDH祭り〜秋のLIVEスペシャル〜「LIVE×ONLINE IMAGINATION 」の開催が決定! E-girlsは9月25日(金)に出演予定。ぜひご覧下さい!
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