あなたなら恋と仕事、どちらを選ぶ?究極の選択を迫られた女性の生き様

1930年代イギリス。名門大学で物理学を学ぶジョーンは、知人の紹介で出会ったロシア人のレオと恋に落ちる。卒業後、核爆弾の開発に関わり始めた彼女は、その機密の提供を要求するレオを拒絶するが・・・。

戦中戦後の英国で暗躍、2000年に88歳で逮捕された冷戦時代ソ連の女性スパイの実話をもとに映画化。思想を問わず男性が女性を侮る時代にあって、ジョーンが選んだ恋と生き方、正義とは?

今回、映画ライター渥美志保さんに見どころをたっぷりと語っていただきました!(編集部)

女スパイは、なぜその恋を選んだのか?時代に翻弄された女性の実話に基づいた衝撃のストーリー

1930年代のイギリス、名門のケンブリッジ大学で物理学を学ぶ女性ジョーンは、知人の紹介で出会ったロシア人のレオと恋に落ちます。やがて第二次世界大戦が始まり、核兵器の開発に関わり始めた彼女のもとに再び現れたレオは、その機密をソ連に提供してほしいと持ちかけてきます。

レオは当時のイギリスのエリート学生を、ソ連のシンパにするために送り込まれたスパイだったんですね。機密保持契約を結んでいる彼女は、「話せない」きっぱりと断る、のですが・・・。

映画で描かれる主人公ジョーンは、当時イギリスでも既に完成していた核爆弾に関する機密をソ連に漏洩した実在の人物で、2000年になんと80歳で逮捕された女性スパイです。

この映画はいわゆる「スパイもの」なのですが、彼女がさまざまな局面で、よくも悪くも「女扱いされている」ことが描かれているのがすごく面白い。

例えば研究所で。研究の記録係として雇われた彼女、上司はその知識を認めていますが、外部の人は彼女を見る度に「お茶くみ」扱いしたり、「忙しい研究者の衣類の洗濯を頼む」と言われたりします。

彼女から研究に関する機密を聞き出そうとするレオにも、「女はモノにしてしまえば、何でも言うことを聞く」という意図が透けて見えます。

その一方で、自分から「機密を持ち出す」と決意した彼女は、そうした「女扱い」を逆手にとってスパイ行為をまんまとやり遂げてゆきます。

例えば今以上に、男女の区分けや距離感が当然だった時代に、女性の荷物検査はどうしても甘くなるし、ランジェリーショップに入ってしまえば、尾行の男は入ってこられない。「女にそんなだいそれたことできるはずがない」という思い込みは、時に女性さえ持っていますよね。

ラストには、ジョーンもまたその思い込みに、操られていたことを知ることになります。

さて問題は、レオを始めとする男たちに求められた時は断ったのに、なぜ「機密を持ち出す」と決意したのか。そして、なぜそうしたスパイ活動を止めて、新しい人間として生きることを決めたのか。

映画は逮捕された80歳のジョーンが、若き日を思い出す形で進んでいきます。その時代、バーン! ドーン! みたいな、いわゆるスパイ映画っぽいことがあるわけではないけれど、スリルとサスペンスが満点。

その一方で、取り調べ中に若き日々を語る老齢のジョーン、当時の思い出の甘さと自分の愚かさが同時に湧き上がり交錯する様が、表情の中に見て取れます。ジュディ・デンチの名演は必見です。


『ジョーンの秘密』
【監督】トレヴァー・ナン
【出演】ジュディ・デンチ、ソフィー・クックソン、トム・ヒューズほか
TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー中
©TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018
https://www.red-joan.jp/

渥美志保
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渥美志保
TVドラマ脚本家を経てライターへ。雑誌やWebのほか、企業広報誌などにも多く寄稿。J-WAVE「KEY COFFE METROPOLITAN CAFE」にてシネマスターとして映画を紹介。TOKYO FM「FMシネマ」では構成とキャスティングを担当。現在は映画を中心にカルチャー全般のインタビュー、ライティングを手がけている。
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