愛と欲望が狂わせる。危険なバーチャル恋愛に溺れた女の行く末とは?

フランスを代表する女優ジュリエット・ビノシュを主演に迎え、大学教授を務める50代の美しき女性が、SNSの罠にはまっていく様を描いた映画『私の知らないわたしの素顔』。
後戻りのできないバーチャル恋愛に翻弄される、SNS時代を生きる現代女性の深層心理が暴かれます。この映画を、映画ライター渥美志保さんにレビューしていただきました!(編集部)

恋愛と欲望のみを糧に生きる主人公の行き着く先は

夫の浮気で離婚した大学教授クレールは、年若い恋人と奔放な恋愛を楽しんでいましたが、ある時、その恋人が自分と距離を置き始めたことに気づきます。彼の家に電話しても同居人から見え見えの居留守を使われたりしてショックを受けるのですが、彼をなかなか諦めることができません。

彼の様子が知りたくて立てた作戦は、フェイスブックで彼の同居人で写真家のアレックスと友達になること。架空の24歳の女性「クララ」のアカウントを作った彼女は、アレックスがアップする写真のファンをよそおって友達申請し、やがて日常的にメッセージを送り合うように。

ところが頻繁にやりとりするうちに、二人の関係はバーチャルな恋愛へと発展してゆきます。いまいちはっきりしないカバー写真とは別の「クララ」の写真を欲しがる彼に、クレールは姪の写真を送り、さらに動画を送り、直接話したいと電話場号を渡され、「会いたい」と熱望され・・・ネット上でクララに自身を同化させてゆくクレールは、求められる快楽の中で目覚めた自身の欲望を抑えきれなくなってゆきます。

物語はヒロインのカウンセラーへの告白によって進んでゆくのですが、本人が語る話には当然ながら秘密と嘘と虚構がちりばめられていて、後半は知らなかった事実が次々に明らかになり、そのたびに思わぬ方向にサスペンスフルに展開。SNSの偽りの世界にハマった主人公、その心の奥底にある傷や、こじらせたコンプレックスが浮き彫りになってゆきます。

24歳の美女になり切り、相手を欲情させることに喜びを覚える一方で、自身の同世代の友人には「20歳年下の男が私にメロメロで」と言ってしまうクレール。嘘を信じたいだけなのか、本気で信じているのか、その真意は測りかねるのですが、どちらかわからないからこそ危うく、ちょっと怖いものがあります。

「“別の人生”が欲しかったのではなく、“自分の人生”を生きるために」若い女に成りすましたのだと語る彼女の心境は、もしかしたら年齢には関係なく、「自分がなりたい自分」と「他人に評価されてしまう自分」の違いに悩む女性全部の心に、ずーんと響くものがあるように思います。

ただそうした思いが招く結末には、戦慄を覚えざるを得ません。彼女がなりたい自分――「男に欲望される存在」は、結局のところ自己完結していない、どうにもならない「他者の評価」があるわけで、その行き着く果てに幸せを見出すことはできるのかなあと考えさせられます。

『私の知らないわたしの素顔』
監督:サフィー・ネブー
出演:ジュリエット・ビノシュ、ニコール・ガルシア、フランソワ・シビルほか
1月17日(金) Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
(C)2019DIAPHANA FILMS-FRANCE 3 CINEMA-SCOPE PICTURES
http://watashinosugao.com/

渥美志保
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渥美志保
TVドラマ脚本家を経てライターへ。雑誌やWebのほか、企業広報誌などにも多く寄稿。J-WAVE「KEY COFFE METROPOLITAN CAFE」にてシネマスターとして映画を紹介。TOKYO FM「FMシネマ」では構成とキャスティングを担当。現在は映画を中心にカルチャー全般のインタビュー、ライティングを手がけている。
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