たしかに聞こえた気がしたけれど。【E-girls山口乃々華連載 ののペディア/ホッチキス】

E-girlsメンバーの山口乃々華さんが、瑞々しい感性で綴る連載エッセイ「ののペディア」。今、心に留まっているキーワードを、50音順にひもといていきます。

第30回「ほ」:ホッチキス


画用紙に書いた絵、切り取った雑誌の数ページ、たまたまいい感じに撮れて現像した写真、お菓子のパッケージ、なんてことのないメモ、かわいくて捨てられなかったステッカー。

ぜんぶの角を合わせて、ホッチキスで挟んだ。

さまざまな形、質のものたちが、分厚く重なっている。

あまりにバラバラで、なかにはホッチキスの針が負けるんじゃないかと思うほど硬いものもあったけれど、ぐっと力を込めて、垂直に押し込んだ。

ガッチャンという音がして、ひとつにまとめることができた。


束になったそれをぺらぺらとめくってみる。

こうやって、過去のにおいがプンプンとするものに触れると、そのときのことを鮮明に思い出せる。

当時のわたしはそれを残したかったのだろうけど、今はもう、そこまでの想いはない。

捨ててしまおうかとも思うけれど、懐かしいにおいは嫌いじゃないので、やっぱりまだとっておくことにした。


***


それにしても、においは鼻につくもので
その日は一日中、思い出した日々のことを考えていた。

ずっとモヤモヤしていたあのこと。

このホッチキスと紙束の関係に、もしかしたら似ているかもしれないなと、ふと思う。
ホッチキスで留めようとしたのに、針が負けてしまったときのような。


人と人との関係にも、そういうときがある。

紙が多すぎたり、厚すぎたりすると、うまく留まらない。
1枚1枚が魅力的でも、ホッチキスと見合わなければ、だめなのだ。

ガッチャンという音がしたとしても、きちんと留まったとは限らない。


あのときのわたしは、紙束のうちの1枚として、留められているんだと思いこんでいた。
いや、本当は、留められたかった、というほうが正しいかもしれない。

そういうとき、針はとても強く、美しく見える。

憧れて、羨ましくて、その針が欲しくて、
わたしは身体を一生懸命動かしたし、頭も使った。
(それは決して無駄ではなく、今にとても役立っている。ありがたく、感謝している)

どこか足元がぐらついているような、不安定な気配はあったけれど、気がつかないように、気がつかれないように、騙し騙し必死に、自分の中にも通っているはずの針を信じていたのだ。

それは、未来の為でもあった。


大事なものは、美しくあってほしい。願望だ。
でも時が経って、美しいと信じることに必死になったり、思い込む必要がなくなったら
周りと、自分がよく見えるようになる。

今思えば、あのときガッチャンという音がたしかに聞こえた気がしたけれど、針は途中までしか届いていなかったのだ。

悲しいけれど。

それだったら納得できる。

あれはやっぱり、そういうことだったんだ。


なんて、ホッチキスに喩えたら、過去なんてちっぽけに思えて、
でも、ないものをあると信じて、頑張り続けるのは悪くないと思えた。


***


部屋を散らかしたままだったので、思い出の品たちをサササと棚の中にしまう。

それから、カラカラに乾いた洗濯物を取り込んで、ひとつひとつ畳んでいく。
一切の湿り気のない乾いた衣類たちは、いい香りをさせている。

それぞれの場所にまたしまう。


【ののペディア/ホッチキス】
強く見えたもの

山口乃々華 / E-girls
ナビゲーター
山口乃々華 / E-girls
3月8日生まれ、埼玉県出身。2011年にLDH主催の「VOCAL BATTLE AUDITION 3」を経て、2012年発売の「Follow Me」よりE-girlsとしてデビュー。2014年から女優業もスタートし、映画「イタズラなKiss THE MOVIE」シリーズ、ドラマ・映画「HiGH & LOW」シリーズやHulu版「崖っぷちホテル!」にも出演する等、活動の幅を広げている。この夏は7月10日(金)全国ロードショー映画「私がモテてどうすんだ」にヒロイン役にて出演! BL大好き妄想ヲタク女子なのに・・・4人のスーパーイケメンDK(男子高生)にモテまくる!? 笑って!歌って!踊って!抱腹絶倒のミラクル☆ラブコメディ!
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