国字って知ってる?日本が好きになる漢字の知識

大人になってから、もっときれいに字を書けたら・・・と思ったことがある人も多いはず。ここは、日ごろから書道を教えている書画家・夏生嵐彩の連載「文字のクリニック」。先生のもとに訪れた相談者さんの「字」にまつわる悩みや疑問を、丁寧な指導で解決へと導きます。(編集部)

素朴な疑問。漢字が作られたのはいつ?

「先生!先生はよく漢字の成り立ちについていろいろ教えてくれますが、漢字ってものすごい昔からあるわけじゃないですか」

「そうね、漢字の原型の象形文字・・・いわゆる甲骨文は紀元前15世紀あたりからあるようだから、今からかぞえたら3000年以上前には漢字の原型が作られていたことになるわね」

「それって、今私たちが使っている漢字がすでに3000年前にはすべて作られていたってことなんですか?」

「うーん・・・素材はほとんどできていたって感じかな。漢字の中でも甲骨文の頃から使われていたものと、必要に応じて後から作られたものとがあるから。甲骨にはなかった文字で、私たちが普段よく目にしているものも、実はたくさんあるの」

文字はこう変わっていった!

まず、基本的なことを1つお伝えしますね。文字が現在の形になるまで、ざっと上の図のような経緯をたどっています。一番古いのが甲骨文、一番新しいのが今私たちが普段書いている楷書体です。

「行書って楷書をくずしたわけじゃないんですね!」

「そうなの。みんな楷書から習うから楷書を崩したと思われがちだけど、行書は篆書(てんしょ)や隷書(れいしょ)を崩したもの。楷書は行書を整えた文字なの」

「それはプチびっくりですね!」

実は、そこに至るまでの間にも文字はたくさん変化しているのです。

「終」と「冬」、もともとは同じ字だった!?

ここに「」という字の甲骨文があります。

そしてもう1つ「」という字の甲骨文があります。

お気づきでしょうか。そう、全く同じ字なのです。

この甲骨文は糸の末端を結びとめた形で、「おわり」の意味を表していました。でもこの字、シンプルすぎて「終」の字と似ても似つかないですよね・・・?

なんと、実は「終」の字の形は最初存在せず、もともとは「冬」が「おわり」を意味する字だったのです。

確かにこの甲骨文字が「冬」になる形なら想像できますよね。

そしてのちに「冬」が季節の「ふゆ」を表す字として用いるようになったため、「おわり」を意味する漢字がなくなってしまったので「終」という字が作られました

ですから、「終」の意味の元字は「冬」の甲骨文と同じなのですが「終」の字形の元となっている字は「冬」が「季節のふゆ」の意味専門になった時代から新しく作られたのです。なので「終」にちゃんと見える字は篆書からしか存在しません。

余談ですが、「終」の字はどっちも糸が結んである形から作られていますね。

新しく文字を作る時は、音と意味とが無関係にならないように作られていることが多く、読むときの音の役割として使う部分は【シュウ】と読めれば何でもいいわけではないのです。「冬」【シュウ】(※昔はトウではなくシュウだった)がもともと「おわり」の意味であったことや、糸と関係するので、部首は糸へんになっています。

そうして「終」という字が誕生しました。

漢字は日本でも作られていた!

漢字はすべて中国で作られたものを使っていると思っていませんか?

日本では3~5世紀ごろに漢字が伝わったとされていて、その後日本風にいろいろ工夫されてきました。

しばらくは借り物の字で何とかなっても、日本にしかない土地や植物を表すために独自の漢字や仮名遣いが必要になったのです。

そこで新しく、日本でも漢字を作りました。日本で作られた漢字を国字と呼んでいます。もちろん国字には原型となる甲骨文は存在しません。甲骨文を使っていた時代から2000年くらいは経ったあとのことですから。

(こうじ)や(かし)、(しずく)などは国字として有名です。面白いのでぜひ「国字」とインターネットで調べてみてください! 意外なものが国字だったりしますよ。

その中の1つを紹介すると「」という字です。

どの時代にも職や役割があるでしょうから「働」なんて昔からありそうな字ですよね?

「働く」というのは「人が動いて生産活動を行う」という意味合いがありますが、中国の儒教文化では「生産」には重きを置いておらず、独立した概念が存在しなかったとされています。

近代になってできた考え方ですから、日本で作られた「働」という漢字を中国が逆輸入し「労働」という熟語を現代に使用しています(現在中国は簡体字ですが)。

いかがだったでしょうか。

漢字は3000年前にすべての原型が存在していたわけではなく、その文字の意味の変化によって新しく別の字が必要になったり、新しいものや新しい社会のありようを表すために新たな字が誕生したりしてきたのでした。

漢字のすごいところは、新しく作るときにでたらめな記号が付与されるのではなく、似た意味や関連する音などが借りてきやすい、とても体系化された文字だというところ。

今後、新しい概念を表す漢字ができるのでしょうか。想像すると少しワクワクしますね!

それではまた!

文・イラスト/夏生嵐彩

夏生嵐彩/書画家
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夏生嵐彩/書画家
東京学芸大学 書道科卒業。書道と水墨画の教室『墨サロン』主宰。 全日国際書法会 理事/ 日本芸術書院 評議委員。大正ロマンやアールデコに影響を受け、レトロな美人画を得意とする一方、伝統技術と舞台演出を駆使した水墨画ライブペイントや、アートを取り入れた児童への教育活動を行い、文化と教育のために一石を投じている。
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