ちっとも寂しくなんかなかったのに・・・【E-girls山口乃々華連載 ののペディア/温もり】

E-girlsメンバーの山口乃々華さんが、瑞々しい感性で綴る連載エッセイ「ののペディア」。今、心に留まっているキーワードを、50音順にひもといていきます。

第23回「ぬ」:温もり

東京で一人暮らしを始めてから、そろそろ8年目になる。
もうそんなに経つのか、という気持ちだ。

今年の2月はおかしな天気。
わたしも桜の木と同じく、春だと勘違いしてしまいそうなくらい、暖かい日がある。
そんな日は、上京したときのことを思い出させてくれる。


・・・


実家を出ていくわたしを、母が心配そうな顔をしながら、でもいつも通りに玄関先で見送ってくれたことを、今でも覚えている。

そんなふうにあっさりと新生活は始まった。


一人暮らし、といっても
初めの3年間は寮暮らしで、部屋から出ればすぐにメンバーと会える環境だった。

そのおかげで、我慢できないほどのホームシックになることもなかったし、なにより“初めての一人暮らし”に、かなりワクワクしていた。

憧れのピンクのタンスを置いて、花柄のベットカバーを掛けて
それから真っ白のドレッサーを置いたりもして。
そんな部屋に住めるのが嬉しくて、楽しみで、仕方なかったのだ。


東京に来てからは、なんだかんだ忙しい日々が続いた。

新生活という名の魔法はいつのまにか溶け、
ひとりの部屋に帰り眠ることにも、慣れていった。


しかし、ある日のこと。

前日の余りのカレールーを、電子レンジで温めようとして、
誤って器をひっくり返してしまった。

カレールーは
まだまだ新しいピンクのラグの上に綺麗に広がった。

ただのドジな失敗だけれど、びっくりして、その瞬間なぜか急に寂しさを感じた。
カレーだらけになったラグを見ていたら、わっと涙が溢れてきた。

泣きながら思った。
こういうちょっとしたハプニングが起きても、誰も来てくれないんだ、と。


実家にいたときは、家族の誰かしらが来てくれて、片付けを手伝ってくれただろう。
「何やってるの、もう〜」と叱るか、笑ってくれたはずだ。

そう思ったらもう、涙が止まらなかった。
それまではちっとも寂しくなんかなかったのに、急に“ひとり”を実感したのだと思う。


わんわんと泣きながら、落としてしまったカレーをティッシュで拭いた。
でも、拭いても拭いても汚れは取れず。

今度はイライラしてきた。
カレーに八つ当たりした。

もうなかったことにしてしまおう、と
そのままラグを丸めて、粗大ゴミとして捨ててしまった。


ガランとした部屋を見て、
ラグ、捨てちゃだめだったな、とまた気持ちが暗くなった。
感情がごちゃ混ぜになり、やるせなかった。


寂しさを感じるようになってからは、部屋の中に人形を置いたり、抱き枕を買ったりもしたけれど、それではわたしが求めている温もりを感じることはできず
実家によく帰るようになった。

実家から東京に戻る日は、そのあとに仕事や予定がないと、なんとなく気持ちが沈んでいくのがわかった。

さっきまで家族と一緒だったのに、突然ひとりになるその静けさが、わたしの中の何かにチクっと刺さるのだった。


家族の温もりなんて、実家に住んでいたときは全然わからなかった。
だけど心にしっかりと染み付いていたからこそ、
離れてひとりで暮らしてみたとき、思いもかけないきっかけで、
寂しさという感情になって表れたのだと思う。


・・・


今、一人暮らしは、わたしの日常になっている。

あの頃に比べたら、ちょっとやそっとのことでは動じないくらいに逞しくなった。

それでも、思い立ったらすぐ帰れる距離に実家があることに、未だかなり助けられているのが正直なところ。


【ののペディア/温もり】
心が知っていたこと

山口乃々華 / E-girls
ナビゲーター
山口乃々華 / E-girls
3月8日生まれ、埼玉県出身。2011年にLDH主催の「VOCAL BATTLE AUDITION 3」を経て、2012年発売の「Follow Me」よりE-girlsとしてデビュー。2014年から女優業もスタートし、映画「イタズラなKiss THE MOVIE」シリーズ、ドラマ・映画「HiGH & LOW」シリーズやHulu版「崖っぷちホテル!」にも出演する等、活動の幅を広げている。この夏は7月10日(金)全国ロードショー映画「私がモテてどうすんだ」にヒロイン役にて出演! BL大好き妄想ヲタク女子なのに・・・4人のスーパーイケメンDK(男子高生)にモテまくる!? 笑って!歌って!踊って!抱腹絶倒のミラクル☆ラブコメディ!
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